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「えっと、そうだね……。最初よりは、印象が良くなったかな、っていうだけで、あの、恋愛感情とか、そこまで、別に、その……」
「そうか! だったら良かった!」
屈託なく生み出されるその笑顔に、つい引き込まれそうになる。
七咲君が、勢いそのままに言葉を継ぐ。
「まだそこまでの感情になっていないなら、最初の計画通り、早めにあの家から出ていくべきだ。それが上田のためだよ」
「そ、そうかな」
「ああ。――さっきは、尊流が関わっていることはあり得ない、なんて言ったけど、よく考えたら、今回の偽装婚約自体、尊流が仕掛けた壮大な罠だっていう可能性もある」
「ど、どういうこと?」
「実は、尊流は雫との結婚に対して前向きなのかもしれない。でも、それを良しとしていない親族がいて、妨害を受けている、とか。だから、何らかの形で上田が利用されてる、っていう可能性もゼロじゃない」
「そんな……」
ふと、先日の尊流の言葉が蘇る。
「別に、そこまで悪く言うほどの女じゃないんだけどな」
西条雫の話をしている時、確かに尊流はこう言った。そして、西条雫は被害者だ、とも。
なぜ尊流は、あの場で西条雫をかばうようなことを言ったのだろう。私が脅しを受けて、恐怖に打ち震えているというのに。
もしかして……。
七咲君の言う通り、本当は西条雫のことを好きだけど、何らかの事情でそれを公にすることができなくて、私というピエロを用意した、とか……? 今の状態は、これから始まる壮大な陰謀劇の序章に過ぎない……?
だとしたら、これまで見せてくれた、そこはかとない尊流の優しさも、すべて演技……?
――悪寒がした。
だって、辻褄は合っているんだもの。
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