【第20話】

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「えっと、そうだね……。最初よりは、印象が良くなったかな、っていうだけで、あの、恋愛感情とか、そこまで、別に、その……」 「そうか! だったら良かった!」  屈託なく生み出されるその笑顔に、つい引き込まれそうになる。  七咲君が、勢いそのままに言葉を継ぐ。 「まだそこまでの感情になっていないなら、最初の計画通り、早めにあの家から出ていくべきだ。それが上田のためだよ」 「そ、そうかな」 「ああ。――さっきは、尊流が関わっていることはあり得ない、なんて言ったけど、よく考えたら、今回の偽装婚約自体、尊流が仕掛けた壮大な罠だっていう可能性もある」 「ど、どういうこと?」 「実は、尊流は雫との結婚に対して前向きなのかもしれない。でも、それを良しとしていない親族がいて、妨害を受けている、とか。だから、何らかの形で上田が利用されてる、っていう可能性もゼロじゃない」 「そんな……」  ふと、先日の尊流の言葉が蘇る。 「別に、そこまで悪く言うほどの女じゃないんだけどな」  西条雫の話をしている時、確かに尊流はこう言った。そして、西条雫は被害者だ、とも。  なぜ尊流は、あの場で西条雫をかばうようなことを言ったのだろう。私が脅しを受けて、恐怖に打ち震えているというのに。  もしかして……。  七咲君の言う通り、本当は西条雫のことを好きだけど、何らかの事情でそれを公にすることができなくて、私というピエロを用意した、とか……? 今の状態は、これから始まる壮大な陰謀劇の序章に過ぎない……?  だとしたら、これまで見せてくれた、そこはかとない尊流の優しさも、すべて演技……?  ――悪寒がした。  だって、辻褄は合っているんだもの。
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