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「ええ、そうですね。確かに今日は、サクラさんを尾行しました。――でも、こうして尾行したのは今回が初めてなんですよ」
「そう言われて、すぐに信じると思います? 証拠はないですよね?」
「証拠、ですか。――サクラさんと七咲さんが会っていた一昨日の10月29日の昼は、友人と行きつけの店でランチをしていました。今から確認でも取りましょうか? 一昨日の昼にその店にいたことが証明されれば、僕の言っていることは真実、ということになるはずです」
七咲君の顔が曇る。「……いや、大丈夫です。そこまで言い切るってことは、本当はその店に行っていないのに、すでに口裏合わせが済んでいる、っていう可能性もありますから」
「へぇ、疑り深いですね。これじゃあ、どんな証拠を示しても、イチャモンをつけられてしまいそうだ。どこかに日付が映り込んでいる写メを見せても、『合成写真だ』とかね」
二人の舌戦は続く。
「わかりました。じゃあ仮に、『尾行したのは今日が初めて』という滝沢さんの言い分を信じるとしましょう。だったら、今日は誰に指示されて上田を尾行したんですか? 霧島家の執事であるあなたに命令できる人間といったら、限られているはずです」
「なるほど、論点を変えてきましたか。なかなかディベートがお得意ですね」
「いや、全然。誰もが感じる当たり前の疑問をぶつけているだけです。――答えてもらえますか?」
「ええ、まったく問題ありません。――独断ですよ。思うところあって、僕の意志のみでサクラさんを尾行させていただきました。誰からの指示もありません」
「滝沢さんの独断で?」
「ええ」
「それは無理があるでしょう。言い訳としては苦しすぎます。なんで、霧島家の執事であるあなたが、独断でそんなことをしたんです?」
ここで、終始態度や言動に余裕のあった滝沢さんに、変化が訪れる。
「それは……」
珍しく口ごもったのだ。
七咲君が攻勢を強める。
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