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「滝沢さん、何か言いたいことがあるなら、言ってください」
ここまで静観に徹していたものの、つい言葉に出してしまった。
滝沢さんが何を考えているのか知りたい。なんで今日、私を尾行したのか知りたい。その一心で。
それでも、滝沢さんは何も答えてくれない。
「お願いします、真実を話してください! 私を尾行したのは、本当に独断なんですか? 何か事情があったんじゃないんですか? 尊流に依頼されたとか、尊流のご両親から命令されたとかっ……。それとも……雫さんから……何か打診があったとか……?」
だけど滝沢さんは、「サクラさん……」と苦しそうに呟くだけだった。
***
「やっぱり、キーマンは滝沢さんだな。一昨日、雫があの公園に現れた一件は、あの人が絡んでいる可能性がめちゃくちゃ高い」
何を訊いても要領を得ない滝沢さんにしびれを切らし、私の手を取って公園から出ていく七咲君に従った私。そのまま近くの喫茶店に入り、注文を済ませると、七咲君は開口一番そう言った。
正直、私も同じ意見だ。あそこまで挙動不審な姿を見せられたら、疑うなという方が難しい。
「あの滝沢さんが……」
若いのに人間ができている、という印象が強かっただけに、ショックも大きい。
七咲君が険しい顔で言う。
「こうなってくると、何が真実なのかはわからない。滝沢さんは、一体誰と繋がっているのか……。尊流かもしれないし、尊流の両親かもしれないし、雫かもしれない。――もしかしたら」
「もしかしたら……?」
「――滝沢さんが、上田を好きになった、なんていう可能性もあり得ると思う」
あまりに突拍子もない予想に、「へっ?」という間抜けな声を出してしまった。
「つまり、上田に好意を持った滝沢さんが、偽装婚約をぶち壊そうとして雫に連絡した、っていう線もなくはないだろ?」
とんでもない角度からの予想に、右手をブンブン振りながら否定する。
「い、いやいやいや! それはないよ! 会って数日のイケメン執事を魅了するなんて、私にできるわけないし!」
「そんなことないって。上田は、自分の魅力を低く見積もりすぎだよ」
間髪を入れずに嬉しい言葉をくれた後、続けざまに信じがたい言葉を口にした。
「正直、俺も上田のこと……好きだし……」
時間が止まる。
そんな現象が、比喩ではないことがわかった。
この瞬間、私の中では確実に時間が止まっていた。
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