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 目が覚めた時、視界は半分以上欠けていて、声は出ないし、身体じゅう絶望的に痛くて、起きなきゃよかったなんて琴子は後悔した。  だがそれも、清音と奏真の顔を見た途端に吹っ飛んだ。          ◇ ◇ ◇  その日から、琴子の世界には夢がない。  夢を見なくなったし、世界を救えたりはしないけれど、頼れる仲間がいて、この未来(さき)ずっと一緒に歩んでいける。それは案外、夢よりずっと奇跡的な巡り合わせかもしれない。 『身近すぎて見落としてしまうものもありますカラね。ゆめゆめお忘れなきように』  どこからか、甘ったるい女神の声がしたが、琴子にはもう聞こえない。  朝のバス停には、明るい笑い声が三つ──絶えず響いていた。
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