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 琴子は家族や友人に比べれば、夢の内容をよく憶えている方だ。  夢に見るのは、決まって壮大なファンタジーの世界。  夢の中では、いつだって琴子が主人公。琴子は時にプリンセスで、時に聖女で、時に救国の英雄で──。たとえ辺境の村娘に生まれついたって、そこから素敵なヒーローと巡り合って、あれよあれよという間に仲間が集い、涙必須の大冒険を繰り広げられるのだ。  だから朝が来るたび、いつも虚しかった。  目を開ければ、天蓋付きのベッドなんてなくて、満月気取りの無機質なシーリングライトが、天井から琴子を見下ろしている。  夢に出てくる真ん丸大きなお月さまは、異世界を開く扉……、あるいは神々の晩餐の器──そんなロマンを与えてくれる素敵な装飾品なのに、現実はとってもつまらなかった。  カチカチ──なんて、ちっとも心に響かない音で明かりが付くところも気に入らない。夢の世界なら、蛍袋に夜光虫を閉じ込めた素敵なランプだって存在するのに、琴子の生きる現実世界には夢が無さすぎるのだ。
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