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「あっ! そういえばさ、姉貴知ってるか?」
まただ。弟は私の顔を見るといつもこの台詞を吐く。
「何をよ」
まぁ私の返しもたいてい同じだが。
「ポケットの中に何かお菓子が入っててさ、叩くと増えるとかって歌あるじゃん?」
「はぁ」
「あれさ、ただ割れただけだよな。そりゃ増えるっつの。こんな感だろ? よいしょっと」
弟はケタケタと笑いながら大振りのハンマーを持ち上げ躊躇なく振り下ろす。バリン、と硬質な音がしてアスファルトの上に置かれた〝ソレ〟が白い粉を上げ粉々になった。
「あー、こらこら! 何でもかんでも粉々にしちゃダメだってば!」
「ん? ああ、そっか。〝コレ〟はキレイにとっておくんだっけか」
「そ。右だけね」
「しかし何でまた?」
そう言って弟は首を傾げる。
「よくそっちで殴られたからだって」
「えー、なのにキレイなままで取っておくの? 変なヤツだなぁ」
「ま、あれじゃない? 戦利品みたいな感じ?」
「ふぅん、まぁいいけどさ。ポーケットのなーかーにーは♪」
下手くそな弟の歌を聞いているうち、私は不意に子供時代を思い出した。
「そういえばさ、昔ポケットの中に隠したよねぇ」
弟はすぐにピンときたようで「あー、隠した隠した!」と嬉しそうに笑う。
「まさかあんなにすぐ警察が来ると思わなかったもんねぇ」
「だなぁ。でも警察の人たち優しかったよな」
「そりゃそうでしょ。両親が強盗殺人の被害者になったんだから」
両親は私と弟がまだ幼い頃殺された。
「おかげで施設に行けてよかったけどな」
ポツリと弟が呟く。そりゃそうだ。父も母も薬物に溺れ、私たちは虐待されて育った。それこそ殴られたり蹴られたりなど日常茶飯事だった。いい思い出など全くない。
「そうね。あのままだったら私たちの方が殺されてたよね、きっと」
あの時私たちがポケットの中にしまったのは……。
――ポーケットのなーかーにーは♪
――血塗れの……♪
了
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