わたしは・・・

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4次元ポケットといえば・・・? 「某漫画だね。」 じゃぁ、高次元ポケットといえば? 「・・・何だそれ?」 私たちが今いるこの世界は3次元って言われてるのは知ってる? 「あぁ、そうかな。」 じゃぁ、ひとつ下の2次元の世界と言えば…アニメだと思わない? 「そうだな。」 で、さっきの4次元と言えば、になるんだけど。 「あのアニメだとよ、4次元ポケットって言うだろ?」 おばあちゃんが言ってたんだ。 ここの世界が基準だとしてよ、私たちが地上に立つとさ、上にも下にも右にも左にも動けるよね?見えるよね? 「そうだな。」 これが3次元。 で、2次元代表は漫画…紙の世界でいいかな。 簡単に言えば、平面の世界なんだよね。 書かれているものを見る視点は1点だけだよね。 どれだけ3Dっぽく書いていても、紙に書かれてるから、1方向からしか見えないでしょ。 だから、ここ3次元より下になるでしょ? 「おー、確かにな。」 逆に、私たちの上の4次元の世界は机の引き出しから来る某漫画が代表かな? あれを考えたらわかりやすいよね。 上下左右、地上も天井もすべてから見える。3Dの世界と言えばいいかな。 「そうそう、ぐるっと1周見えるよな。」 そんな感じでさ。 5次元、6次元…って上っていくと、最終的に高次元になるわけ。 で、その高次元ってどんな世界なんだろうって聞いたの。 高次元ポケットっていうのが、もしあったらよ? 行けるとしたら、どんな世界だと思う? 「夢の世界だな。」 へぇ。 「もはや乗り物なんて時代遅れでさ、時空移動も瞬間移動も思いのままよ。生身ひとつでどこへでも~、みたいな感じだろ、ぜったい遅刻なんてない世界なんだろうな。」 ちょっと低レベル過ぎない? 「あるわけねぇんだもんよ、絶対そんなもんなんだって。」 ふいに、ビル風が冷たい風を運んでくる。 私はコートのポケットに手を入れた。 いままで会話をしていた隣を並んで歩く男の子に声を掛けた。 ねぇ、私のポケット見てみる? 「あん?」 高次元の世界に行けるかもよ? 「へっ・・・。ふざけた事言うんじゃねぇよ。」 怖いの? 「ばっかやろー。おら、みんな待ってるんだから早く行くぞ。」 男の子は足早に歩き始めた。 この男の子は誰なんだろう、この私の友達?それとも恋人? 私は再びコートのポケットにかじかんだ手を差し込んだ。 今日はクリスマスが過ぎたばかりで、まわりは正月を迎える準備で騒がしい。人々の足取りも忙しそうだ。 顔に吹き付ける雪交じりの風も冷たい、師走だ。 それなのに今手を入れたポケットの中は焼けるように熱い。 もちろんカイロではない。 まるで灼熱の砂漠にいるかのような焼けるような暑さなのだ。 すると私の手が生暖かいものを感じた。 動物の舌のような感触。 あの子が舐めたのだと分かった。 「くすぐったいよ。」 さっきまで一緒に旅をしていた相棒。 私の乗っていた可愛いラクダだ。 そう、私はさっきまでラクダに乗って砂漠を旅していたのだ。 何年前の砂漠の、何年前に生きていたラクダなのかも分からない。 記憶は薄い。 私自身も、いつの時代の誰かなんて分からない。 呼吸をして、毎日生きている。 名前もない。 生きているだけの存在。 ただ、さっきまでラクダと一緒に旅をしていたことだけは覚えている。 今は、さっき一緒に歩いていた男の子が大切な人なのだという事は分かる。 でも、それだけ。 ポケットに手を入れると、さっきまでの世界を感じる。 まだ通じているのだろう。 私はどうやってここに来たのだろう。 そして、どうすれば戻れるのだろう。 いや、私はあの砂漠にいるべき人間なのだろうか。 違うだろう。 砂漠ではない違う時代の違う場所にいたはずなのだ。 自分がない。 自分の意志とは関係なく、時間も空間も人間関係でさえも自由に操られているる。 これが高次元の世界なのか。 ・・・いや、それすらもわからない。 ここはまだ、10次元にだって達していない世界なのかもしれないのだから・・・。
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