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「現代文のですか? 知ってるけど、最近結婚して名字が変わったような……お、お兄さん⁈ どうしたの⁈」
気付くと机に突っ伏していた青年の肩を慌てて揺すった。
「俺、二年前までここの高校に通っていたんだ」
「えっ、じゃあ先輩なんですか?」
「うん、一応。三年の時に新任で入ってきた宮前先生が好きで、告白したけどフラれてさ。でももう一度会って気持ちを伝えようと思って来たら……『結婚したの』って嬉しそうに報告されたよ」
「……確かお相手は大学の同級生らしいです」
「おいー、そんな傷口をえぐるような情報はいらないよー……」
「す、すみません!」
「今日のためにわざわざ新幹線に乗って帰ってきたのになぁ」
好きな人に会いに来たのに、目的を果たせなかったのか--彼が落ち込んでいた理由を知って、真白の胸もツキンと痛んだ。
「なんかお兄さん、めちゃくちゃ可哀想……」
「同情されるのも悲しいからやめてね」
青年は皿に残ったチョコレートを見ながらクスッと笑う。
「確かに心躍るケーキだったな」
そして生クリームと一緒に一口で食べてしまった。
しかし心が躍ったのは彼だけでなく、真白も同じだった。自分が作ったケーキをこんなにも美味しそうに食べてくれて嬉しくなる。
「あの……もう一つケーキ食べますか? 私からのプレゼント」
「えっ、いいの?」
「うん、むしろ食べて元気になってほしいです」
「嬉しいなぁ。じゃあお言葉に甘えて」
二つ目のケーキを届けると、青年は真白の顔をじっと見つめた。
「なんですか?」
「いや、まさかこんなに美味しいケーキに出会えると思わなかったから。今日はこのケーキを食べに来たって思うようにしようかな」
その時に彼が見せてくれた笑顔があまりにも自然で、真白は心も視線も釘付けになってしまう。
なんだろう。この人のほんわかした雰囲気と話し方に、胸が苦しくてドキドキする--名前も知らない彼がタルトタタンを食べる姿を見ながら、真白の心臓はステップを踏み始めたようだった。
「美味しかったよ。ごちそうさま」
「はい、こちらこそありがとうございました!」
席を立つ背中を視線で追いかけたが、お辞儀をして頭を上げた頃には、彼の姿はもうそこにはなかった。
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