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文化祭が行われている校舎内は、賑やかな声が響き渡り、活気に満ち溢れていた。
「喫茶ローズでーす。美味しい手作りケーキと紅茶のセットはいかがですかー?」
腰までの長い黒髪を揺らし、膝下スカートのメイド服に身を包んだ真白は、ダンボールで作ったら手作り看板を手に持ち、廊下に出て自身が所属しているクッキング部の喫茶店の呼び込みをしていた。
そんな中、真白は階段を降りて来た一人の青年から目が離せなくなる。
白いTシャツに黒のカーディガン、デニムパンツ。足取りはゆっくり、俯きがちに沈んだ様子で歩いていた青年は、周りにいる人が避けて通るほどの不幸なオーラを放っていた。
真白は驚いたように目を瞬くと、唇をキュッと閉じた。顔は見えないが、もしかしたら泣いているかもしれないーー視線の先に見える頭の頂点がそう言っているような気がした。
文化祭を楽しみにしている人、お客様に楽しんでもらいたくて頑張っている人がいる中で、その人の様子は雰囲気に合っていないように感じる。
こんなお祭りの日。もし何か嫌なことがあったのなら、励ましてあげたいと思った。
その人が自分の前に差し掛かった途端、真白は一歩前に出てダンボールの看板をグイッと彼に向かって差し出した。
「うわぁっ……あぁ、ぶつかってすみません……」
そう言うと、青年は驚いたように顔を上げてから、再び頭を下げる。しかし真白の想像とは違い、泣いてはいなかったーー泣きそうな顔ではあったけど。
彼が横を通り過ぎようとしたのを、慌てて看板で止める。すると青年は困ったような表情で真白を見た。
「あ、あの……?」
真白はすかさず看板を押し付ける。
「喫茶ローズです。良かったら食べて行きませんか? 美味しいケーキと紅茶がセットでワンコインです!」
「えっ……あぁ、でも今は……」
更に力強く看板を掲げた。
「今なら私が作ったタルトタタンもありますよ。おじいちゃんが丹精込めて作ったりんごを使っているので、美味しさは折り紙付きです」
そのどこか強引な勧誘に、青年は驚いたように目を見開いた。
「おぉ……すごい自信……」
真白の圧に負けたのか、青年は力なく頷いた。
「じゃあ……行ってみようかな」
「良かった! ではでは善は急げです」
弱々しく呟いた青年の手を掴むと、廊下の壁に『喫茶ローズ』と書かれた看板が貼られた教室へと招き入れた。
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