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「ご主人様のお帰りでーす!」
真白の掛け声と共に、教室にいたメイドたちの視線が一気に青年へと集中する。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「え、えっと……ただいま戻りました」
案内された席に、少し照れくさそうに身を縮めて座った青年に、真白はメニュー表を手渡した。
「改めまして、いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「そうだなぁ……あっ、さっき君が言っていたタルト……ラタタンだっけ?」
真面目な顔でそう言う青年の言葉を聞いた真白は、思わず吹き出してしまう。
「タルトタタンですね」
「あぁ、タルトタタンか。間違えちゃったな……」
「いえいえ、ご注文ありがとうございます。少々お待ちください」
壁で仕切られた調理スペースに入った瞬間、ツボに入ったまま抜け出せなくなっていた真白は、しゃがみ込んで両手で顔を押さえながら必死に笑いを堪える。
タルトラタタンだって! まるで音楽でも聞こえてきそう。そんなダンスもありそうだもん。
「真白ちゃん? 注文はなんだって?」
突然調理担当の同級生である光里に声をかけられ、ハッと我に返る。
「あっ、ごめん。タルトタタン、一つ入りました」
「タルトタタンね、ちょっと待って」
皿に一切れのタルトタタン。生クリームをちょこっと添えて出来上がりなのに、真白は少しだけ物足りなさを感じた。
それは先ほど廊下を歩いていた彼の姿が気になったから。何があったかはわからないけど、笑顔になれるような魔法はないだろうか。
真白は辺りを見まわし、調理台の上の箱の中に大量に入っていた飾り用のチョコレートを見つけた。
ケーキの種類に合わせて載せるチョコレートが決まっていて、タルトタタンにはリンゴ型のものを載せる予定だった。
でもあの人にはこっちの方が合いそうーー。
「チョコレート、こっちを載せてもいい?」
「えっ⁈ それってギャグで作ったやつだったよね。まぁもらった人がそれでいいなら別にいいけど……」
そう言われた真白はチョコレートを一つ手に取ると、生クリームの上にちょこんと載せた。
思いがけず可愛いケーキが出来上がり、笑みが溢れる。
「真白ちゃん、紅茶も出来たからどうぞー」
「はーい」
真白はトレーにケーキと温かい紅茶を乗せると、客席のある教室へと戻っていった。
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