タルトタタンの甘い色

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 調理スペースから出て客席を覗くと、青年は肩を落として再び俯いている。それを見た真白は、慌てて彼の元へと駆け寄った。 「お待たせしました! タルトタタンです!」  ビクッと肩を振るわせた青年は、顔を上げた途端に瞳を輝かせる。 「これがタルト……ラタタン……」 「いえいえ、タルトタタンです」 「あぁ、タタンか……」  フォークを手に取って一口食べた青年は、驚いたように目を見開いた。 「美味しい……」  彼の言葉を聞いた真白は嬉しそうに微笑む。 「すごいリンゴの食感があって……でも柔らかくて……アップルパイとはなんか違う感じだよね」 「アップルパイはパイ生地を焼いてから、甘く煮詰めたリンゴを載せて焼くのに対して、タルトタタンは甘く炒めたリンゴにタルト生地を載せて焼いてるんです」 「へぇ……作り方が全然違うのか」  その時に添えられたチョコレートに気付き、彼は不思議そうに眺める。 「フラメンコの……ダンサー?」 「それ、私が作ったんです。可愛いくないですか?」 「おぉ、こんなのまで作れるんだ。すごい」 「うふふ。さっきの『ラタタン』って聞いたら笑いが止まらなくなっちゃって。それになんだかステップを踏んでるみたいな響きだなぁって」 「ステップ、なるほど。少しだけ陽気な気分になるね」  すると青年はハッとしたように真白の顔を見た。 「君はフラメンコをやっているの?」 「ち、違います! お兄さんが元気なさそうだったから、なんか面白いことをしたら元気が出るかなって思っただけです! もうっ、心配して損しちゃった!」 「えっ、俺のため……?」  青年は目を瞬き、どこか照れたような表情似になる。それから慌てて二口目を口に放り込む。  真白はため息をつくと、前の席の椅子を引いて座った。 「まるで不幸のどん底みたいな顔で歩いているんだもん。気になっちゃったんです」 「そっか……ありがとう。うん、美味しいケーキを食べたら元気が出たよ」 「……何かあったんですか?」 「えっ……」 「だってお兄さん、大学生か社会人ですよね? 高校の文化祭に来て泣きそうな顔をしてるなんて不思議だもん」  最後の一口を食べた青年は頭を掻きながら、困ったような笑みを浮かべる。 「うーん……大したことじゃないんだ。いや、大したことなのかなも……」 「じゃあ軽く話してくれたら聞きますよ?」  言葉に詰まって下を向いたが、 「宮前先生、知ってる?」 とさ囁くような声が返ってきた。
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