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あれから一年。
副部長として迎えた高校最後の文化祭は、今年も晴天の中の開催となり、校舎の中は賑わっている。
昨年同様、喫茶ローズは手作りケーキと紅茶でワンコイン。メイドたちも明るくお客様をもてなしていた。
今年も祖父から大量のリンゴが届いたので、真白は何を作るか悩みつつも、昨年のことを思い出してタルトタタンを作ることにした。
あの人が二切れも食べてくれたし、美味しいって言ってもらえたし。良い思い出だけが思い出されるタルトタタンだった。
あの人はもう元気になったかしら--思い返しながら、つい苦笑いになる。今年は来ない方がいい。だって宮前先生のお腹がだいぶ大きくなってきたから、そんな姿を見たらあの人は卒倒しちゃうかもしれない。
クスッと笑いながら歩いていると、どこからともなく、
「……タルトラタタン……」
という声が聞こえてきた気がしたのだ。
真白は慌ててパッと振り返ったが、ここはたくさんの人が行き交う廊下。人の波に飲まれてしまい、あたりを確認することは出来なかった。
何か別の言葉を聞き間違えたのだろうか。でも"タルトラタタン"に似てる言葉があるかは謎だった。
ただ真白の中でささやかな期待が生まれる--まさかあの人が来てる? 名前を聞きそびれてしまった"タルトラタタンのお兄さん"が。
今は休憩時間だったが、校内を回るよりも喫茶ローズに気持ちが向き、足取りが早くなる。
人並みをすり抜けながらようやく喫茶ローズに到着すると、真白を見つけた光里が頬を赤らめながら駆け寄ってきた。
「真白ちゃん! 今びっくりなことが起きてね、ほらコレ」
光里は手のひらサイズに丁寧に折られた白い紙を見せてから、真白にそっと手渡した。
紙を開いた真白は驚いて目を見開いた。
『昨年は声をかけてくれてありがとう。今年はタルトタタンを食べにきました。とても美味しかったです。ごちそうさまでした。』
「やっぱり来てたんだ……」
「真白ちゃんにお礼がいいたかったみたいだよ。休憩中だって言ったら、この手紙を渡してくれって……真白ちゃん⁈」
光里の言葉が途中だったけれども、真白は居ても立っても居られなくなり、急いで教室を飛び出した。
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