タルトタタンの甘い色

5/7
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
* * * *  あれから一年。  副部長として迎えた高校最後の文化祭は、今年も晴天の中の開催となり、校舎の中は賑わっている。  昨年同様、喫茶ローズは手作りケーキと紅茶でワンコイン。メイドたちも明るくお客様をもてなしていた。  今年も祖父から大量のリンゴが届いたので、真白は何を作るか悩みつつも、昨年のことを思い出してタルトタタンを作ることにした。  あの人が二切れも食べてくれたし、美味しいって言ってもらえたし。良い思い出だけが思い出されるタルトタタンだった。  あの人はもう元気になったかしら--思い返しながら、つい苦笑いになる。今年は来ない方がいい。だって宮前先生のお腹がだいぶ大きくなってきたから、そんな姿を見たらあの人は卒倒しちゃうかもしれない。  クスッと笑いながら歩いていると、どこからともなく、 「……タルトラタタン……」 という声が聞こえてきた気がしたのだ。  真白は慌ててパッと振り返ったが、ここはたくさんの人が行き交う廊下。人の波に飲まれてしまい、あたりを確認することは出来なかった。  何か別の言葉を聞き間違えたのだろうか。でも"タルトラタタン"に似てる言葉があるかは謎だった。  ただ真白の中でささやかな期待が生まれる--まさかあの人が来てる? 名前を聞きそびれてしまった"タルトラタタンのお兄さん"が。  今は休憩時間だったが、校内を回るよりも喫茶ローズに気持ちが向き、足取りが早くなる。  人並みをすり抜けながらようやく喫茶ローズに到着すると、真白を見つけた光里が頬を赤らめながら駆け寄ってきた。 「真白ちゃん! 今びっくりなことが起きてね、ほらコレ」  光里は手のひらサイズに丁寧に折られた白い紙を見せてから、真白にそっと手渡した。  紙を開いた真白は驚いて目を見開いた。 『昨年は声をかけてくれてありがとう。今年はタルトタタンを食べにきました。とても美味しかったです。ごちそうさまでした。』 「やっぱり来てたんだ……」 「真白ちゃんにお礼がいいたかったみたいだよ。休憩中だって言ったら、この手紙を渡してくれって……真白ちゃん⁈」  光里の言葉が途中だったけれども、真白は居ても立っても居られなくなり、急いで教室を飛び出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!