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2.別離
2.別れ
健一の幸せな時間は、あっけない別れによって砕かれた。
美子が逆走してきた車の巻き添え事故でこの世を去り、健一の世界は暗闇に包まれた。
健一は病院へ急いだが、美子は霊安室に運ばれていて、そこで彼女の最期を見届けることとなった。
扉を開けると、美子の傍らには憔悴した両親が立っていた。
「君は誰だ?」
「僕は高橋健一と言います。美子さんの事故の知らせを聞いて……」
変わり果てた美子の姿に健一の心は痛みに満ちていた。
「悪いが帰ってくれ」
美子の父は健一を受け入れることなどできなかった。
健一は頭を下げ、慰めの言葉が見つからず、無言でその場を去った。
数日後、美子の葬儀が行われ、健一は参列した。
葬儀後、彼は美子との交際を両親に告げることを決意した。
「私は何も聞いていない」
美子の父は拒絶の意志を見せた。
「お父さん…」
声をかけたのは、美子の母だった。
「美子がLineで交際している男性がいて、いつか紹介したいと言っていたんですよ」
美子の父は妻の言葉に驚き、うろたえた。
「君は常識がないのか。美子を失い、私たちは悲しみに耐えている。葬儀の日に交際していたと告白するのは、自分勝手だと思わないか」
健一は再び頭を下げて美子の家を後にした。
愛しい人を失い、健一の人生は暗闇の中に閉じ込められてしまった。
アパートの中で、彼は布団から出ることもできず、屍のように静かに時が過ぎていった。
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