留学生は妖術師

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「真美よ 留学しろ」 「……はい?」 「我等が妖術師の力を世界に見せつけるのだ」 「おじいさま、お話がわからないのですが」 「もはや日本に我々が活躍できる舞台はない だがお前は天賦の才を持つ このまま眠らせるのは勿体ない」 「本音は?」 「妖術が話題になれば入門希望者が増えるんじゃねぇかな~ 貴族とかにコネ作ってガッポリ稼ぎてぇな~」 「おじいさま!」 「とにかく お前にとってもいい刺激になるはずだ アメリカの魔法学校で学んでこい」 「あーあ ホントに来ちゃった」 飛行機から降りればそこは異国 目の前には広大な岩山がそびえたち、耳には英語が流れ込んでくる アメリカが誇る観光名所 グランドキャニオンだ 「真美さーん!」 空港を出れば金髪のお姉さんが手を振っていた スーツ姿がよく似合うショートボブの美人だ 「アメリカへようこそ 私はロックマリー魔法学校のイザベラよ」 「初めまして 東道真美です」 「あの有名な東道家のご令嬢でしょ? 私ファンなのよ!日本文化って素晴らしいわ」 「アハハ ありがとうございます おじいさまも喜びます」 「ウチの学校は魔女の末裔やシャーマンの弟子など幅広い生徒がいるわ だからアナタも遠慮せずのびのびと過ごしてちょうだいね?」 イザベラ先生に連れられ車に乗り込む 観光客を乗せたバスを横目に脇道へ入りそのまま岩山へ一直線 そこには一見何もないが 「うわ!凄いですねイザベラ先生! 幻術?いや違うな、結界術に近いのかしら?」 「ちゃんと見えているようで安心したわ ようこそロックマリーへ」 真美の目には立派な学校が映っていた 「随分と広い敷地ですね どこまで見えないように守っているんですか?」 「もちろん全部よ 岩山や何もないように擬態させているの 校舎はまた後で案内するから、まずは寮の部屋に行きましょうか」 先生が手を叩けば車がポニーへ変身した 白黒のぶち模様だが賢そうな目をしてとてもカワイイ まるでお乗りくださいというように真っすぐ2人を見つめていた 「紹介するわ 私の使い魔のダニエル 何にでも変身できる魔法の馬よ」 「どうもお嬢さん初めまして 荷物はこれだけかい? それなら2人とも余裕で乗せられるな」 「わっ 喋った!」 「アッハッハッ ここは魔法学校だぜ? 馬も犬も箒も石像も喋るさ」 「アナタは喋り過ぎよダニエル ほら真美さんも乗って」 「おっ やっぱり少し太ったなイザベラ 車の運転席に座った時から思ってたが、そんなに太られちゃ俺も悲鳴をあげそうだ」 「お黙りダニエル 今日の餌を抜きにするわよ」 「それはむしろ君の方だ 夕食は半分残すといい そしたら僕が食べてあげよう」 「ごめんなさいね真美さん この子ホントにお喋りで 新しい子がくるといつもこうなの」 「いえいえ 私の使い魔もこんな感じですから」 小気味よいやり取りを聞きながら、馬の背に揺られて宿舎へ向かう 校庭や校舎、プールにテニスコートなど様々な設備が横目に見える 「本当はもっと賑やかなんだけど、いまは丁度夏休みだからほとんど誰もいないのよ」 「生徒数って何人くらいなんですか?」 「1年生から3年生まで合わせて180人 それに先生が20人だからピッタシ200人ね」 「私はまだ16歳だから」 「1年生のクラスに編入ね 何を隠そう私が担任よ」 「えっ!?そうなんですか!?」 「さぁついたわよ!ここが宿舎の椿屋です!」 「……あの、イザベラ先生 どう見てもただの旅館なんですが」 そこには堂々と和風な建物が建っていた 落ち着いた雰囲気の木造二階建て 暖簾こそかかっていないものの、どこをどう見ても老舗旅館だ 遠路はるばるアメリカに来たのに住むのは結局和風建築か 「本当は生徒用の寮に住んでもらう予定だったんだけど、生憎部屋に空きが無くて」 「確かに急な留学をお願いしたのは私の方ですが、それにしてもなんですかこれ?」 「それは、そのぅ」 「職員用の宿舎を建てる時に学校関係者全員でバトルトーナメントが開かれてな 一切忖度せず校長を殴り飛ばしてイザベラが優勝したのさ その結果こんな純和風になっちまった」 「こら!ダニエル!」 「だからお嬢さん このイザベラだけは怒らせちゃいけねぇぜ? じゃないと校長みたいに肋骨3本折っちまう」 「2本よ2本 1本はヒビだけよ」 「イザベラ先生!!ナマいってすみませんでした!!不肖この東道真美、ありがたく住ませていただきます!!」 「こら!真美さんものらないの!」 畳の和室かと身構えていたが、部屋は普通に洋室だった フローリングにベッドと本棚 4畳ほどのワンルームだ 「トイレとお風呂と食堂が共有 足りない物があれば買い出し手伝うからいつでも言ってね」 「ありがとうございます!」 「それじゃ少し休んでて 2時間くらいしたらまた迎えに来るから、その時に校舎とか案内するわ」 イザベラ先生も退室しようやく1人だ 一息ついてベッドに寝転ぶ いまだにどこか実感がない つい昨日まで日本の山奥で妖術修行していた小娘がいまではアメリカの岩山で留学生 寂しさと嬉しさがぐちゃぐちゃだ とりあえず起き上がり荷ほどきを始めると カタリ 何やら物音がした 扉は閉まったままで誰も入ってない かといって狭い室内には誰もいない おそるおそる荷物から呪符を取り出した 「悪は日向に善は日陰に 隠れし答えを示すはここに」 呪符に祈りを込めて床に叩きつける 放射状に稲光が走り部屋中を走査 怪しい物を見つけ出す 「ミギャッッ」 すると変な悲鳴をあげて天井から何かが落ちてきた なんというか、これは 「……アライグマタヌキ??」 顔はタヌキ 体はアライグマだが白ではなく茶色 そのくせ尻尾に縞模様はない 中途半端な合いの子だ さっきの呪符が効いたのかピクリとも動かない ゆっくり触れようと手を伸ばすと 「真美さん!!それから離れて!!」 「どいてな嬢ちゃん!!」 扉が開いてイザベラ先生が駆け込んできた 驚いて固まる私の目の前でダニエルが大きな口を開く そのままパクリとアライグマタヌキを飲みこんだ 「どうダニエル?」 「こりゃあ結構多いぞ ザっと感じるだけで30はいる」 「あの!!イザベラ先生!! これはいったい?」 「あぁごめんね真美さん 来てもらったばかりだけど、トラブル発生よ」 とりあえず全員で食堂へ向かう その道中イザベラ先生はスマホで誰かと連絡を取り合い、心底めんどくさそうな顔をしていた 「悪いなお嬢ちゃん まぁこれがロックマリーの洗礼だ」 「変な事言わないのダニエル 真美さんも何か飲む?」 「ありがとうございます じゃあブドウジュースいただきますね」 「おいイザベラ!そこに隠してあるお菓子も出してやれよ 確かメイドインジャパンだろ?」 「げっ なんで知ってるのよダニエル」 席についてホッと一息 随分と見慣れたポテチをつまみながら、イザベラ先生は話し始めた 「真美さんの部屋に出たのはターリモメ いわゆる害獣よ」 「ゴキブリやネズミみたいな厄介者だが主食が違う 奴等は魔力を食べるんだ」 「魔力を食べる?」 「といっても微弱な物よ 私達が魔法を使った後の残滓や、空気中に漂う魔力を食べる生物なの 日本にはいないかしら?」 「生気を吸う妖怪ならいましたが、魔力を食べるのは聞いた事がありません」 「妖怪!良いわよね~妖怪!」 「うっとりしてるイザベラの代わりに説明すると、たとえば俺みたいな使い魔、それからイザベラが常時発動している翻訳魔術 これらは周囲へ魔力を漏らしている 妖術師のお嬢ちゃんならわかるだろう?」 「人間が呼吸をして息を吐き出すように、術というのは周囲の魔力を吸って周囲へ魔力を吐き出している」 「そういうことさ さらにターリモメが厄介なのは」 「適した姿に変化するの たとえば子供部屋に隠れたら玩具に、食器棚に隠れたら食器に、見た人が違和感がないと思う姿に変わってしまうのよ」 「あれ?でもさっきはなんだかアライグマとタヌキの合いの子に?」 「真美さんに合わせようとして失敗したんでしょう」 「お嬢さんはアメリカに来たばかりで何が当たり前かもわかっちゃいない まだ日本の常識のままだ」 「おそらく真美さんが見ても違和感を感じない姿になろうとした結果タヌキを選んだけど、そもそも知らないせいで中途半端になった」 「なるほどそれで でも部屋にタヌキがいたら違和感ありまくりますって」 「だから協力してほしいのよ 真美さんがいればターリモメは同じように変化を失敗する そうすれば片っ端から捕まえられるわ」 「少なくとも他に30匹はいるだろうな 言っただろ?ゴキブリやネズミみたいなもんだって 1匹見つかればわんさかいるのさ」 「ちなみに放置したらどうなるんですか?」 「どんどん増殖して面倒な事になるわね 最悪の場合空気中の魔力量が減って魔法が使えなくなるわ」 学校案内も兼ねてターリモメ探索が始まった まだあまり事態が飲み込めていないが、なんだか少しワクワクしている 特別な非日常感を味わっていた 「本当にごめんなさいね いつもだったらこんなことないんだけど」 「いまは休暇期間ですもんね」 「えぇそうなのよ いつもだったら全生徒で一斉に捕まえたり、そもそもターリモメ除けのおまじないが効いてるんだけど」 「わずかな隙間が空いてたみたいでな ちなみにターリモメ除けの管理責任者はこのイザベラだぜ」 「ダニエル!それは内緒って約束だったでしょ!」 「休みにかまけて日本のアニメ見ながらゴロゴロしてたもんな」 「いまの話は全て嘘だからね真美さん そんなわけないでしょう」 「いやいやアニメ面白いですもんね もしかして陰陽師の咎とか好きですか?」 「あっっ!!オントガ知ってるの!?あれいいよね~!!!」 「ストップだイザベラ それはまた後日のお楽しみ ターリモメの気配がするぜ」 ダニエルはプールの近くで立ち止まった 鼻を高く上げて周りの匂いを嗅いでいる 「凄いですねダニエルさん 変化の他に索敵もできるんですか?」 「こう見えて実はとんでもなく長生きなのよ 私の一族に代々仕える使い魔で、小さいころからの友達だわ」 「イザベラが仕込まれる時から知ってるぜ」 「ライン越えよダニエル」 「う~ん これは多分水中にいるな 泳げるかいお嬢さん?」 「泳ぎなら得意です!任せてください!」 プールサイドまで来てみれば、そこには異質な物が泳いでいた 「イザベラ先生 まさかと思いますがプールに鯉を放ちましたか?」 「いいえ 流石の私もそれはしないわ」 「そうですよね それにあの鯉の模様、実家の庭にいる鯉そのままです」 「それに鯉ってもっと大きいよな あんな熱帯魚サイズの訳が無い」 ダニエルが鮫に変身し水中へ飛び込んだ イザベラ先生もポンプ室へ走りプールの排水を始める しかしターリモメも必死の抵抗 どうにか逃げようと懸命に泳ぐ 「失敗した!鮫じゃ小回りが効かねぇ!プールじゃ魚の方が有利だわ!」 「何やってるのダニエル!早くしないと逃げられるわ!」 「私に任せてください!」 真美は懐から巻物を取り出した 口に咥えてゴニョゴニョと唱えればドロンと煙が立ち込めて 「真美様 お久しぶりでございます」 隣に大きな蝦蟇が現れた 背丈は真美と同じくらい ドッシリと構えた逞しい巨体だ 「フゴフゴフゴフゴフゴ」 「了解しました あの鯉を狙えばいいのですね」 真美は指で水中を指し示した 大蝦蟇はしっかりと狙いを鯉に定め、素早く鋭く舌を伸ばす 「捕獲完了 ふむ、異国の味がしますね」 伸びた舌は華麗に鯉を絡めとり、あっという間にペロリと丸呑みにした 「凄いじゃない真美さん! コレが名高い東道の大蝦蟇ね!!」 「フゴフゴフゴフゴフゴ」 「真美様は私を召喚している間、巻物を咥えていないといけないので喋れないのです」 「まぁ喋り方も丁寧だわ どこぞの鮫とは大違い」 「悪かったよ もうそろそろ戻してもいいんじゃないかお嬢さん」 よくやったと蝦蟇の顔を撫でて巻物を放す またお呼びくださいと軽く会釈をして煙の中に帰っていった 「ふぅ アメリカでも蝦蟇を呼べてよかったです」 「ありがとね真美さん よければまた召喚してほしいなぁ」 「それよりもターリモメって食べても問題ないんですか?」 「モーマンタイだぜ 俺達使い魔に比べればとんだ下級生物だ」 「食べれば魔力回復できるし、ダニエルみたいな探査能力持ちなら付近にどのくらいいるか調べられるしいいことばかりよ」 「それなら安心です まぁウチの大蝦蟇なら滅多な物では腹壊しませんが」 「学校に残ってた他の先生からも連絡が来たわ ターリモメを数体倒したって」 「どっかの先生と違って優秀だな ターリモメ除けはちゃんと強化したんだろうな?」 「言われなくてもしたわよ」 プールを離れてお次は校舎 広いエントランスに迎えられる 「校舎は地下室も含めて5階建て 真ん中に中庭があるロの字型よ」 「うわ~!地下室まであるなんて凄いですね!」 「といっても地下は半分物置だ 危険な代物が目白押しだぜ」 「だから生徒は立入禁止 気になっても入っちゃダメよ?」 「はーい それでどこから探すんですか?」 「気配がするのは図書室だな」 「それなら1階ね 貴重な本ばかりで驚くわよ?」 トコトコと無人の校舎を歩く 部員募集や校内新聞など生徒の息吹を直に感じる なぜかいきなり害獣駆除の手伝いをしているが、本当に学校へ来たんだな 「さぁ着いたわよ ここがロックマリーの誇る図書室」 「腰を抜かすなよお嬢さん」 大きな扉を開けば辺り一面本だらけ 天井まで伸びた本棚がズラリと並び、古書から新書までギッシリと詰まっている 「うわぁ 圧巻ですね」 「全て電子管理されてるから、欲しい本がある時はこのパソコンから探すのよ」 「逆に言えばターリモメがどこにいるかわからねぇ ここには魔術書もあるから俺の鼻も利かん 地道に魔法で探そうぜ」 「司書の先生と図書委員の子がいれば一発だったんだけどねぇ この部屋全体に炙り出しの魔法かけるのは面倒だしどうしようかしら」 「……あのぅ、イザベラ先生」 「ん?どうしたの真美さん?」 「多分あの本です」 「あぁ東道家の妖術指南書ね 真美さんの曾祖父が書いたんでしょ?」 「げっ!それもあるんですか いやそうじゃなくて、その隣の本棚」 真美が指差す先には分厚い本が収められていた 立派に輝く背表紙は素晴らしい物だが絶対にここにあるはずがない なぜならそれは 「陰陽師の咎公式アンソロジー陽炎の初回特別版!?」 「お~!凄いなイザベラ!普段の呪文よりスムーズな詠唱だ」 「そりゃそうよダニエル あれは日本でしか発売されてないうえに100冊限定で作られた描き下ろしイラスト付きの初回特別版だもの!!」 「よくわからないがアレで間違いないのかお嬢さん?」 「恥ずかしいですが間違いないです…… 私の部屋にも置いてありますから」 「つまりお嬢さんが本棚と聞いて思い浮かべる違和感の無い姿ってことか」 耳まで真っ赤になった真美が駆け寄り捕まえようとする しかしその隣を一陣の風が駆け抜けた 「よくやったイザベラ!肉体強化魔法は十八番だもんな!」 「流石ですイザベラ先生!」 「……ねぇ2人とも、ターリモメってどこまで再現してるのかしら」 「おいイザベラまさか」 「さっきの鯉も綺麗に化けてたわ この本も真美さんが読んで違和感がない完璧な贋作じゃ」 「でもサイズが全く違ったじゃないですか!タヌキもアライグマとの合いの子でしたし別物なんですよ!」 「それでもせめて描き下ろしイラストだけは!」 「ギチィリィ!!!!!」 血走った目で無理矢理開こうとするイザベラ先生 予想外のハプニングにターリモメも悲鳴をあげてバタバタと暴れる しかし魔法で肉体強化したイザベラ先生の握力は強靭で、執念も合わさり絶対に逃がさない 「お嬢さんすまねぇ あのバカを止めてくれねぇか?」 「わかりました でも半端な妖術じゃ効きそうにないですね」 「手加減なんてしなくていい いや、むしろ一発ぶん殴ってくれ」 ゆっくりとイザベラ先生に気づかれないように近づいて呪符を貼る 「楽園は目の前に愉悦は我が手に 夢はいつまでもその胸に」 魔力を込めて妖術をかける その瞬間イザベラ先生はトロンとした眼で焦点が合わなくなり本を手放した 全身が脱力しへなへなとへたり込む 「流石だなお嬢さん 高度の催眠術か?」 「いわば明晰夢を見ている状態です いまイザベラ先生は夢の中で理想通りの本を読んでいます」 「なんとも残酷な術だな 最高だ!よくやった!」 「あまり人間には使っちゃいけない奥の手なんで、内緒でお願いしますね」 「わかってるよ むしろイザベラのこんな醜態は内緒で頼むな で、どうやって起こす?」 「パコンと一発衝撃を与えれば」 恍惚の表情でエヘヘと笑うイザベラ先生の後頭部へポニーの後ろ蹴りがクリーンヒット あっ、死んだ そう思うくらい鮮やかに決まり、イザベラ先生は突っ伏して倒れる 「……あれ!?陽炎はどこ!?いまちょうど関係性についての言及がされていたのに!?」 「おはようイザベラ 後頭部は痛まないか?」 「ううん全然」 「聞いただろうお嬢さん これが我が主イザベラだ」 「綺麗さっぱり罪悪感が無くなりました」 「なんかわからないけどありがとね真美さん で、ターリモメはどこ?」 余計な一悶着をしている間にどこかへ逃げてしまった 付近に気配も無いしまた振り出しに逆戻りだ 「せっかくだから屋上まで登りましょうか そこから敷地をグルリと見渡せば気持ちいいわよ」 「途中で音楽室や美術室にも寄っていこうぜ 魔法使いには貴族の子も多いから、意外といいのが揃ってんだ」 寄り道しながら階段を登り屋上へ さっきまでいたプール、それから宿舎の椿屋に生徒用の寮も一望できる 「ロックマリーは意外とスポーツに強いのよ あそこにテニスコートも見えるでしょ?もちろん校庭ではサッカーや野球も」 「隣の体育館ではバスケもできるぜ」 「本当に広いんですね あっ!桜の樹も生えてる!」 「……桜の樹?」 「ほらそこの、花壇の傍に」 「ダニエル 校内に桜なんてあったかしら?」 「絶対にない 寿命を100年は賭けれるぜ」 「あっ!見てください!桜の樹の周りに!」 箒やサッカーボールに化けたターリモメが桜へ集まり吸収されていく それぞれが集めた魔力を集結させて1つの強大な怪物になるつもりだ 屋上で呆然とする真美達の前で、桜の樹は巨大な姿に変化した 「なぁイザベラ 冗談だと言ってくれないか?」 「えぇ冗談よ だってあんなの現実じゃないわ」 「イザベラ先生 これって間違いなく 龍ですよね」 校庭いっぱいに羽をひろげ、目線は余裕で屋上の高さ しっかりとイザベラを睨みつけている 「ねぇダニエルさん もしかしてさっきイザベラ先生に引き裂かれそうになったターリモメじゃ」 「俺もそう思う 散々な目にあって怒ったターリモメの復讐だ」 「2人とも何の話をしてるのよ それよりもあれって地下室にあった竜の欠片じゃ」 「おいおいイザベラ あそこは厳重に封印されてるだろ 確かに第一呪物保管庫だからそこまで強固じゃないが、ターリモメ如きが突破出来るわけ…… ターリモメ除けが緩んでたならまさか!?」 「てへっ」 「冗談じゃねぇぞイザベラ!!」 「ダニエルさん!!簡単に説明を!!」 「イザベラは休暇期間中に当直の先生としてターリモメ除けや地下室の封印が緩まないように管理する任務だった ところがサボったせいでこんな始末だ!! とりあえず俺に乗れ、屋上から逃げるぞ!!」 ダニエルの背中に大きな羽が生え空へ飛び立つ その瞬間背後に熱を感じる さっきまで立っていた屋上に炎が吐かれて黒々と焦げていた 「ダニエル!もしも竜の欠片を取り込んだのなら体内のどこかにあるはずよ!場所わかる!?」 「あの巨体じゃちょいと時間がかかる ターリモメで構成されてるせいでわかりづらい!!」 「イザベラ先生、時間稼ぎさえすればいいんですね?」 「えぇそうよ 真美さん、お願いできるかしら?」 「もちろん1人じゃねぇ 他の先生も応援に来るはずだ それでも5分もたせてくれ!!」 校庭に飛び降りると巻物を咥える 今度呼び出すのは大蝦蟇じゃない もっともっと大きくて もっともっと強い者 「フゴフゴフゴフゴフゴ!!!!!」 足元からもうもうと煙が立ち込める するとその煙が一ヶ所に集まり次第に形を成していく やがて手が生え脚が生え 後光に照らされて三面六腕の巨大な阿修羅が顕現した 「やるねぇお嬢さん!随分カッコイイ切り札じゃねぇか!」 「東道家の守護神 阿修羅だわ でもあれは多分本体じゃない、煙で出来た偽物よ」 イザベラ先生の言う通り、この阿修羅は煙で出来た張りぼてだ でもだからこそ どんなに炎を受けても倒れず、噛みつかれても引き裂かれてもビクともしない その六腕を執拗に振るって龍へまとわりつく しかしこのままじゃいずれバレてしまう 5分間持つかどうかギリギリだ 冷汗をかきながら闘っていると 「お待たせ留学生 ウチの暴れ馬イザベラが随分と迷惑をかけたね」 「ガッハッハッハッハ なんかやらかすと思って当直を任せたからな 最近退屈だったからちょうどいいわい」 学校に残っていた先生が集まってきた ザっと見て5人程しかいないがとても心強い ある者は杖を振るって稲妻を走らせ ある者は地面を隆起させ柔らかい腹を穿つ そんな連携攻撃も意に介さず龍は暴れたがついに 「わかったぞイザベラ!!左足の足首だ!!」 「OKダニエル 久々に飛ばすわよ」 目標達成だ 5分間 ありとあらゆる肉体強化の魔法をかけて仕上がったイザベラ先生の体は眩しく輝く するとダニエルが武器に変身した スラリと長く伸びたそれを見た瞬間、周りの先生が慌てふためく 「おいおい本気かいイザベラ おいで留学生!!逃げるよ!!」 「防衛陣重ねがけ完了 絶対に俺の前には出るなよ!」 それは木製のバットだった 全力で駆けだしたイザベラ先生の速度は目で追えずまるでワープのよう 鈍重な龍ではなにもできない あっという間に左足へ到着すると大きく振りかぶる 「行くわよダニエル!!」 「かっ飛ばせイザベラ!」 そのまま勢いよくバットでぶっ叩いた 信じられないが龍の巨体が浮かび上がる 衝撃波が周囲を襲い窓ガラスが割れた 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」 鬼のような咆哮をあげてバットをフルスイング 快音を響かせて竜の欠片が砕け散る そして巨体は吹っ飛んだ 「流石だなイザベラ!見事なホームランだ!」 空高く飛んだ龍は地響きをたてながら墜落し、その巨体で校舎を押し潰した 「おじいさま~!!ただいま帰りましたよ~!!」 「真美!?お前もうアメリカから帰ってきたんか!? まだ1ヶ月もたってないぞ!?」 「まぁまぁそれは置いといてさ 入門希望者連れて来たよ」 「入門希望者!?何人だ!?」 「190人」 「190人!?」 「初めまして ロックマリーにて真美さんの担任をしているイザベラと申します 実は諸事情により我が校の校舎が壊れてしまいまして もしよろしければ東道家の敷地をお借りできませんか?」 「留学生として私がロックマリーに行ったんだから、反対にロックマリーの生徒が日本に来ても問題ないよね」 「ちょっと待て真美 まだ理解も追いつかないし判断が」 「ロックマリーの生徒は名門貴族が多いってさ」 「遠路はるばるようこそ皆様!! 我が東道家の敷地をご自由にお使いください!!」
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