タマのポケット

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貯金なし、恋人なし、やる気もなし。 就職して早12年。上野春香の楽しみは仕事帰りに行きつけの居酒屋で呑んで帰る事だけだった。 「ただいま〜」 「おかえり。もう、またそんなに呑んで。やってる事おじさんじゃない。たまにはオシャレして誰かとデートでもしてきたら?」 「デートする人いないもん。タマちゃんもただいま〜。猫はいいな。一日中好きな時に食べて寝て遊んで、悩み事なんかないんだろうな」 「タマに絡むのはよしなさい」 「お母さん、昔おばあちゃんが言ってた事覚えてる?猫にはね、身体のどこかに小さいポケットが付いているんだって」 「ポケット?」 「そのポケット、もし背中だったら中身取れないよね」 「猫は身体が柔らかいから大丈夫なんじゃない?」 「そっか!タマ、時々液体みたいだもんね!でもさ、そのポケットには何が入っているのかな?」 「さあね、タマに聞いてごらん」 「タマ〜、ポケットどこに付いてるの?」 寝ているところを邪魔されたタマは迷惑そうに薄目を開け、くるりと背中を向けた。 「ある訳ないか。おばあちゃん、冗談好きだったもんね」 おぼつかない足取りで階段を登る私の背中に母は呆れた様に言う。 「明日、お母さんも早いから自分で起きてお弁当作るのよ!」
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