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花笑みのモニュメント
後日、俺は優香さんから早津の電話番号を聞き出し、今回の舞台である公園に呼び出した。
彼女の告白は無事成功したと言うが、副次的効果は『元上司と元部下を維持』だったらしい。なるほど妻子を大切にするあたり、優香さんが惚れるだけの男気はあるってことか。
俺は別に礼を言うわけではないが、エゴイスティックに敵視して嫌っていた部分は謝ってやろうと思った。早津にしてみれば意味不明だと思うが、今回は副次的効果に握手を求めている。そもそも俺はあいつに対して悪びれる気持ちはない。あくまでも優香さんに手を出さなかったことを褒める代わりに謝ってやろうというだけだ。
彼女はあの日以降、花笑みを見せなくなった。
もっともっと自然に、快活に笑うようになった。
俺にはその笑顔こそ、本当に美しいものだと思えた。
上着のポケットから、勤めている店で密かに買った、3センチ四方ほどの宝石の原石を取り出して握る。
そして『優香さんの笑顔よ永遠に咲けよ』と念じた。
原石と言っても大した額じゃないし、そこらの石ころに紛れ込めば砂をかぶり、埋もれてしまうだろう。
俺は茂みに向かって、そいつを放り投げた。
カサカサッと葉や草を擦り、原石は姿を隠す。
そこに根を生やせ、花笑みのモニュメント。
いつの日か、俺のためだけに見せる彼女の笑顔のために、隠れた場所で詩碑となれ。
それが何の原石かは──まだ秘密だ。
おわり
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