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ほんの二週間、俺と早津は共に働いた。無論相手は店長だが、辞めることが決まっていたし、優香さんが次期店長と決められていたし、俺はあの男に対して素気なく接していた。
早津には妻子がおり、優香さんを恋愛対象にはしていなかった。しかし、明らかに見て分かるほど女性扱いしていた。ここは微妙なところだが、二人が不倫関係にあったとしても驚きはしない。それを示すように、優香さんの花笑みは、早津に対してだけ、特別な香りを放っていた。
妻子のあるやつなんか、つらい思いをするだけだ。
そう告げたくても、二人の関係は匂う程度で確信ではなかった。そして俺は優香さんに急速に惹かれていた。こちらは十八歳、優香さんは二十四歳、早津は三十歳。まだ青春の最中にある俺にとって、早津の存在ほど疎ましく感じるものはなかった。
「古瀬くん」
優香さんは仕事モードのとき、俺をそう呼ぶ。
「慎弥くん」
逆にプライベートモードのとき、俺をそう呼ぶ。
彼女は意外にも内気で、本来は接客業に向いていないと言っていた。でも、アクセサリーが好きだから、なるべく性格を友好的なものに変えたい。その意思が示す通り、常連客を下の名前で呼び、仕事以外では俺を「慎弥くん」と呼び、当然ながら早津のことも「啓史さん」と呼んだ。それがどれほど心を惑わせるか分かっていないあたり、花笑みが似合う穏和な人なんだろう。
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