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雅な拒否
このまま、いつまで悶々としてりゃ気が済むんだ。
日増しにその思いは強くなり、とうとう今日の夕方、決意に至った。
明日、仕事が終わったら告白しよう。
優香さんが悪いんだ。俺に花笑みをくれるから。俺を乱し続けたから。
そして今、大伴家持の歌を恨めしく眺めている。
道の辺の 草深百合の 花笑みに
笑みしがからに 妻と言ふべしや
男視点で見れば、これは真に求婚の歌だ。しかし女視点で見ると、意味がまるで変わってくるらしい。
意味は、『草が生い茂る道端で咲く百合のように、微笑みかけただけです。それで私があなたの妻だと決めないでください』と、求婚を断る歌となるそうだ。つくづく万葉期の人々は雅で、拒絶するにも小洒落ている。
とは言え、優香さんに翻弄されながら働いていても苛立つしかない。だったら白黒はっきりさせようじゃねえかと、スマホで彼女にメッセージを送った。
『明日、仕事が終わったら話があります。時間は取らせません。よろしくお願いします。』
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