告白

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まあ、とどのつまり、俺に早津は越えられない、っと。 気弱で臆病な花笑み仮面の優香さんに、その言葉を言わせるのは酷なんだろう。なにせ、人から嫌われたり恨まれたりするのが怖いんだから。 大伴家持の歌は、こういう場面でこそ使うべきなのかも知れないな。 「優香さん」 ちょっと強めに名を呼ぶと、彼女は背中でびくっと跳ねた。 「ああ、そういうんじゃなくて。怒ってるとかないから、体を(ほぐ)して聞いて」 俺はなるべく穏やかに、あるがままの気持ちを伝える。 「ほとんどの人は勘違いしてるよね。告白が成功とか失敗とか、よく言うじゃない」 見上げると、薄ら白む月や星たち。夜気は静かに、言葉を音へと変えてくれる。 「付き合えたら成功、振られたら失敗。同じ気持ちだよ嬉しいって言ってくれたら成功、他に好きな人がいるのって言われたら失敗。何かさ、それ決まりごとみたいじゃん」 何となく、可笑しくなった。結局、みんな勘違いしてんだよな。 「告白は、相手に想いを告げたらもれなく成功。だってこっちが想ってることを知ってもらえたんだもん。付き合うとか振られるとか、そんなの副次的効果に過ぎない。それをメインにしたところで、副次的効果は副次的効果なんだよ。俺は優香さんに好きだと告げられた。優香さんは俺が好きだと思ってることに気づいてくれた。つまり告白は成功なわけで、むしろそれをどう扱うかは俺次第とも言えるんじゃない? 俺は気持ちを聞いてもらってすっきりした。付き合ってほしいとも言ってないし、優香さんは聞いてくれたんだから、副次的効果がどうであれ、俺が怒ったり嫌ったりする理由はない。でしょ?」 照明を包む光に、虹が見えるようだ。俺は年下だけど偉そうに、弁を振るう。 「早津さんはさ、優香さんの気持ち聞いてくれるよ。きっと断ると思うけど、嫌われることはない。告白が伝えることだけを目的にしたら、それで願いは叶ったことになる。さっき抱かれたいって言ってたけど、向こうが結婚してるんなら、怖さも苦しさも全部受けて立つ気持ちでいないと。悪いことするのは二人であって、彼の奥さんや娘さんには非がないんだから。(あく)(いん)悪果(あっか)の法則は絶対だよ。それに恋愛って、奪ったら奪われるって言うしね」 背中に貼りつく彼女が、小さくフフッと笑った。今まで感じたこともない、憑き物が取れたような自然な笑声だった。 「慎弥くん、ありがとう。私、告白を成功させるよ。だから仕事辞めないで。今はまだ、もらった告白に副次的効果は出せないけど、前向きに、それを検討するから」
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