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光を失う
傘に雨の当たる音がする。
ぼたぼたと、大粒の雨が落ちる音だ。人の通りから離れた路地裏で聞こえるのはその雨の音だけだった。
少年が座り込んでいる少女を見下ろすように立っていた。雨の音がするのは彼が持っている傘である。少女は傘を持っていないため、雨は容赦なく彼女に降りつけた。
少女も少年を見返す。しかし彼の目に少女は映っていない。それどころか、少年の目に光がなかった。感情の削ぎ落とされたような顔をして少女の方を見ていた。
「──っ」
少女はキッと瞳の力を強くした。それでも彼は変わってくれない。
少女自身、何を言いたいのか分からなかった。いや、何と言ったらいいのか分からないと言うのが正しいだろうか。どんな声をかければ彼が還ってくるのかが分からない。
彼の方はやはり光の無い目で少女の方を見つめていた。
彼が踵を返す。そのまま少年は少女をおいて人混みに紛れていった。
残された少女は嗚咽をもらす。声を上げても周りには聞こえないのだが、出なかった。涙を雨に混ぜて、声を殺して、少女は泣いた。
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