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折り句
「──はい、ありがとう。そこまででいいです。その男が詠んだ歌が次に書かれている歌ですね」
教担──教科担任の声に従って手元の教科書に目を落とせば、一つの短歌が載っていた。
『唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ』
「旅の心を詠むだけでなく、さらにかきつばたと初句、二句、三句、……と、各句に入れて男は詠みました。これは折り句といって頭文字に言葉を読み入れる技法です。他にも枕詞、序詞、掛詞、係り結びと、様々な技法が詰め込まれた歌になっています」
教担は和歌の訳に移った。当てられた生徒が立ち上がって訳を答える。
その声を聞きながら隣をチラリと見れば彼女は必死にノートを取っていた。家で訳も品詞分解も出来ているはずなのに、先生や同じ生徒の違う意見を漏らさないようにノートに書く。
折り句。頭文字を繋げて一つの言葉にする。……ならば。
ノートに五文字並べ、思いつく単語で繋げてみるが、どうしても下の句が上手くいかない。『る』から始まる言葉って何があった?
四苦八苦しながら書けた短歌はまあ、意味は通じるかなというものだった。どうせ本人には見せられないだろうとは思いながらも宛名を書き、消さずに次のページに板書を始めた。
初句に入れた赤い菊の花。赤い菊の花言葉は──。
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