プロローグ

11/15
前へ
/48ページ
次へ
「本條――いい?」 「…………」  一之瀬の『いい?』が何を意味するのか分からない程、子供じゃない。  頭では拒まなきゃいけないと分かっているのに、「駄目」の二文字が答えられない。  肯定も否定もしない私を前にした一之瀬は、 「今日だけは、酒のせいって事にしよう? 俺もお前も酔ってた、そのせいで、こうなった――ただ、それだけって事に」  優しく囁くような声でそう口にした。  私たちが酔ってなんかいないのは一目瞭然なのに、お酒のせいにするなんて……とは思ったけれど、もうそれでいいと思った。  だって何かを理由にしなければ、その先には進めないし、すっかり熱を帯びた私の身体はもう、一之瀬を求めてしまっているのだから。  答える代わりに小さく首を縦に振った瞬間、再び一之瀬は唇を塞いできて、さっきよりも強引な口付けをする。 「ッんん、……ふぁ、……ッ」  そして、両手で頭を撫でられたと思ったらその手は髪を掬いながら耳、首筋へと下がっていく。 「――っんん!?」  擽ったさに身を捩ると、今度は舌を強引に口内へ捩じ込ませてきて、キスは激しさを増していく。  勿論、ディープなキスなんて初めてじゃないし、これまで付き合った人とは何度も経験した。  けど、これまで経験したものとは比べ物にならない程、初めてキスが心地良いものだと思ってしまった。 (何これ……キスって、こんなに気持ちよくなれるもの、なの?)  それとも、やっぱり私はまだ、酔っているのだろうか? (もう、どうでもいいや……)  そう思った私は自身の両腕を一之瀬の首へ回していく。 「本條って、結構積極的なんだな?」 「……こういうの、嫌?」 「本條がしてくれるなら、何でも嬉しいよ――」 「ッんん……」  なんて言うか、今目の前に居る一之瀬は、一之瀬じゃ無いみたい。 (一之瀬ってこういう時……すごく優しい顔するくせに、すごく……強引なんだ……)  再び口を塞がれ、何度も何度も角度を変えながらキスが繰り返される。  そして、何度目か分からない口付けの後、背中に回された一之瀬の両手に支えられながら身体を起こされ、向かい合う形になった。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1914人が本棚に入れています
本棚に追加