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「はあ……」
トイレ休憩中、無意識のうちに大きな溜め息が口から吐き出されると、
「どーしたのよ、そんな盛大に溜め息なんか吐いて」
洗面台の鏡で化粧を直していた同期の山岸 菖蒲が問い掛けてきた。
「え? あ、いや……別に……」
咄嗟にそんな言葉が口から出てくるけれど、感の鋭い菖蒲相手には全く通じず、
「嘘。ってか、一之瀬と何かあった? 何か今日、いつもと違う感じがするのよね、二人共」
菖蒲は何かを勘づいているようだった。
「いやいや、そんな事は無いけど? それよりさぁ……」
だけど流石に彼氏でも無い一之瀬と一夜を共にした……なんて話は出来なくて、平静を装いながら何でも無いフリをして深くツッコまれないように話題を変えていく。
そして、今日一日が終わる頃には、いつもの倍以上、疲れが全身に現れていったのだった。
「それじゃ、お疲れ~」
「お疲れ~、また明日ね」
菖蒲と駅まで歩いて来ると、用事のある彼女はそのまま駅を通り過ぎて行き、特に用の無い私は改札を抜けようと一歩踏み出した、その時、
「飯、食ってこうぜ」
「!?」
後ろから腕を掴まれたと同時に聞き覚えのある声が降ってくる。
「い、一之瀬」
「よ、お疲れ」
「今日は打ち合わせで遅くなるんだと思った」
「思いの外早く終わったんだよ。それなのに気付いたらお前居ねぇし」
「だって、別に約束して無かったし……」
「ま、そうだけどよ。それで? 飯、食って行けんの?」
本音を言えば早く帰りたい筈なのだけど、心のどこかで一之瀬と居たいと思う気持ちもあるからなのか、
(ま、いっか……ご飯くらいなら……)
どうせ家に帰っても一人だし、淋しくコンビニ弁当を食べるくらいならば外で一之瀬と食べる方が良いと思い、「別に、良いけど……」と、ついつい誘いを受けてしまうのだった。
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