SCENE1

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 どこに食べに行こうかと話し合いながら繁華街を歩いていた私たちは、ハンバーグが食べたいと言い出した一之瀬の意見を採用してそこそこ人気の洋食屋さんに入った。  席に案内され、一之瀬はハンバーグとライスやサラダ、スープ、デザートの付いたセットを、私はオムライス単品を注文して料理が運ばれて来るまでの間、仕事についての話をしていた。  暫くして、「お待たせ致しました」と言いながら店員さんが料理を運んで来てくれてた。 「美味そうだなぁ」 「ね! いただきます」  どちらの料理も凄く美味しそうで、お腹が空いていた私たちはそれぞれ食べ始めた。 「オムライス、美味い?」  私が半分くらいオムライスを食べ終えた頃、オムライスの味が気になったらしい一之瀬が感想を聞いてくる。 「うん、美味しいよ。卵がふわとろで、凄く好み」 「へぇ~。なあ、一口ちょーだい?」 「え?」 「俺のハンバーグも一口やるからさ、交換って事で! な?」  今までご飯を食べに行った事は沢山あるけれど、互いに分け合う時はいつも箸を付ける前の事。  それなのに、今日はお互いに半分くらい食べ終えたタイミングでそんな事を言ってくるから何だか少し戸惑ってしまう。 (……いや、別に気にし過ぎ……だよね? 分け合うなんて、よくやるもんね……)  いつもとタイミングが違うだけで、分け合うなんて普通の事。  そう心に言い聞かせながら、食べ掛けとは反対側の方をスプーンで掬って一之瀬のライスのお皿に乗せようとしていると、 「そのまま食べさせてよ」  ほんの少し口角を上げた彼はそう口にすると、そのまま口を開いて待っている。 「なっ……」  これには流石に予想外過ぎて一瞬手が止まる。 (いやいやいや、一之瀬って、こういうキャラ? え?)  食べさせてなんて、これまでの彼氏にも言われた事が無かった私はどうすればいいのか分からなくなっていたけれど、「ほら、早く」という一之瀬の催促に我に返った私は周りの視線が気になりつつも、持っていたスプーンを彼の口へと運び、オムライスを一口食べさせてあげた。
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