SCENE2

5/9
前へ
/48ページ
次へ
 意識すればする程、一之瀬が違う人に思える。  知らない人といるみたい。  でも、それも嫌って訳じゃない。  どこか新鮮な感じもするし、何より、『恋』してる実感が湧いてくる。  そして電車がやって来ると、共に乗り込んだ私たち。  帰宅ラッシュだから当然座席は空いていなくて端の方で並んで立つのだけど、妙に距離が近くてドキドキする。  いくら恋してる実感が湧いてくるっていっても、こんな些細な事ですら意識してしまう私は重症かもしれない。  それから一之瀬は当たり前のように自分が降りる駅をスルーして私の降りる駅で下車し、当たり前のように私を自宅まで送ってくれた。 (今日なんてまだ全然早い時間なのに⋯⋯)  そう言葉を投げ掛けたところで一之瀬ならきっと、「何時とか関係ない。俺が送りたいからしてるだけ」なんて答えるだろう。  一之瀬が過保護過ぎるのか、それとも、彼の言う通りこれまでの元カレたちが私に関心が無さ過ぎだったのか⋯⋯。  どちらが正解かなんて人それぞれなのだろうけれど私は、今一之瀬がしてくれる事が嬉しい。 「あの、送ってくれてありがとう。今日も、上がってく?」  この台詞に、深い意味は無い。ただ送って貰うだけは申し訳無いからお茶の一つでも出そという気持ちだけなのだが、どうやら一之瀬はそう取らないようだ。 「誘ってる? まあ俺としては嬉しいけど、悪い、今日はこの後予定あるから帰るわ。戸締まりきちんとしろよ?」 「誘ってないし! それに、言われなくても戸締まりくらいするよ⋯⋯けど、予定あるのにわざわざ送ってくれて、ありがとね」 「俺は当たり前の事してるだけだから。それじゃ、またな」  口角を上げて笑顔を見せてくれた一之瀬は手をヒラヒラさせながらくるりと身を翻すと、そのまま来た道を戻って行く。 (予定がある⋯⋯のか。誰かと会うのかな?)  小さくなっていく一之瀬の姿を目で追いながら無意識にそう考えていた私はふと我に返る。 (って! やだ、私⋯⋯今一之瀬の事凄く気にしてた⋯⋯予定があるって言われただけで気になるとか⋯⋯本当に、何なの⋯⋯)  仮の彼女のくせに、一之瀬の行動が気になるばかりか、予定があるって言われただけで不安になるなんて、こんな自分にびっくりした。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1909人が本棚に入れています
本棚に追加