椎名くんは笑わない 2nd

1/9
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、彼氏の椎名くんが呟いた。  待ち合わせの神社の鳥居の前で待っていた私に、彼は相変わらずのローテンションで近づく。   「久しぶり」 「あ、うん」  ヤバい。落ち着け。  一人だけテンション爆上がりしそうになって、私はこっそり深呼吸した。  一月の澄んだ空気を取り込んだ私の肺が一瞬凍える。    新年が明けて五日目の朝だ。  冬休みに入ってからは受験勉強の焦りで全然遊べなかったけど、そろそろ椎名くんに会いたくなってきたので、思い切って電話で彼を呼び出した。  受験生だし、神社に詣でに行くというのは悪くない口実だと思って。  ちなみに私は元日に家族と初詣に行っているので、今日は2nd(セカンド)(もうで)となる。  二度目の詣が2nd詣という呼び方でいいのか? という疑問は一年前にも感じたけど、結局一年を通じて答えは分からないままだった。多分一年後も同じことを言ってる可能性大。 「なんか楽しそうだな、藤川」 「そう? 別に普通だよ」  逆に、久しぶりに会えたんだから椎名くんも楽しそうにしろよと思う。  すると彼は思い出したように言った。 「やべー。俺、今年に入って五日目なのに、まだ一度も笑ってないわ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!