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ふと思い出した。
椎名くんが去年笑ったのは、沢田くんの笑えるエピソードを思い出したおかげだったということを。
沢田くんは椎名くんのライバルであり師匠でもある、つまりは仲のいい友達だ。ハロウィンの時は椎名くんがナスの全身着ぐるみを着て、沢田くんがカボチャの全身着ぐるみを着て、町内を一緒に練り歩いたこともあった。私は恥ずかしくて同行できなかったけど。
沢田くんに会えばまた笑いが起きるかもしれない。
しかし、椎名くんは暗い顔をして首を横に振った。
「沢田か……あいつにだけは今は会いたくない」
「なんで⁉︎」
「ダメなんだ。どうしても」
「沢田くんと何かあったの?」
椎名くんは眉間に皺を寄せたまま頷いた。
あんなに仲の良い二人が仲違いだなんて、いったい何があったのだろう。
「実は……この間コンビニで負けた方がジュース奢りな? って言ってあいつとジャンケンしたんだけど、俺が三連敗しちゃってさ。しょうがないから好きなもの選んでいいよって言ったんだけど、あいつが頼んだホットカフェオレが俺の想定より30円高くて、結局あいつに30円借金したっていうほろ苦い思い出が……」
「即返金しろ」
ジュージャンを3回やってる時点でこいつお金ないなって、私なら気づくが。
沢田くんはきっと優しいから言い出せなかったんだろうな。
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