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「椎名くん……」
う……。
最近会うの我慢してたせいもあってか、すごく嬉しい。
泣きそうになるくらい嬉しい。
これは神様からのご褒美かな。
椎名くんに会いたくて、ずっとずっと頑張ってきたから。
私は小さく鼻をすすりながら、横を向いて真っ白なため息をついた。
「あーあ。沢田くん、可哀想」
「それがあいつの運命ってことだな」
「ひどいことした人が言うセリフじゃないね」
「そんな俺と知り合ってしまったことも含めてあいつの運命だな」
こいつ、開き直ってやがる。
「マジ可哀想」
悪いと思いつつ、つい笑っちゃう。
すると、椎名くんも微妙に体を揺らしながら笑い出した。
「あっ。椎名くん、いま笑った!」
「しまった。藤川につられて、微妙な初笑いになっちゃった」
私たちは体を離し、顔を見合わせてまた笑った。
「去年もこうやって藤川の笑い声につられたんだよなー。また藤川に俺の初めてを奪われたわー」
「人聞きの悪い言い方しないでよ」
私たちの笑い声が青い空に抜けていく。
なんだか分からないけど面白い。
理由なんていらなかった。理屈なんていらなかった。オチも特にない。
この空気感だけで、私たちはいくらでも笑える。
「今年もよろしくね、椎名くん」
「こちらこそよろしく」
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