明日もその指先で私に触れて

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ゆっくり口を開いた彼は甘い声で 「誰かのために弾くピアノか……」 微笑んで私から指先を離すと優しく呟いた。 その言葉が私を夢心地から現実に引き戻す。 ああ⋯そうだった。 私が恋した彼は人間で、私はピアノ。 初めて私の鍵盤に指先を滑らせ 繊細で華やかな音で部屋を満たした彼を、私は恋い焦がれた。 彼と過ごす このわずかな時間が、私の唯一許された時間。 彼の事を想いながら奏でられてる この瞬間だけは彼を独占できる。 私の恋が実ることは永遠にない。 けれど 私が紡ぎだす音色で あなたへの愛を奏でていくから…… 明日もその指先で私に触れて
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