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校舎から出ると、風がそよいでローブを揺らした。楽しそうな彼らの声。日も落ちたのに空気の中に殺気立った鋭さはない。冬将軍の元気がなくなってきたからだ。私の脇を抜けていった彼らに軽く目配せして、私はエメラルドに光る小道に足を踏み出した。
校舎を含む一帯には、研究棟、図書館、実験植物園、魔法競技場など、広い敷地内に魔法学園の関連施設がいくつも建っている。
小道が昼の陽光を吸収して発光するおかげで、外なら夜でも道を失うことはない。私は杖の光を消して歩き出した。私達学生が暮らす寮は、本校舎の前に広がる池を渡り、園庭を抜けた先にある古城だ。
道は池の水面上を真っ直ぐに伸び、踏むと足の裏の水が軽く揺れる。浮遊感を楽しみながら池を渡り切れば、そこから道は園庭の中に入る。
春には草花が芽吹き小動物が遊ぶ園庭だが、今はまだひっそりと静かだ。遮る木の葉もなく、顔を上げれば紺碧の空にちらちらと色を変えて輝く無数の星が目に飛び込んでくる。
目をつむって深呼吸した私は、ふと、人の気配を感じた。いく先の右手の方、まだ蕾もつけない桜の木の下に、深緑のローブを纏ったシルエットが幹に寄り掛かり、雄々しく伸びた枝を見上げていた。
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