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そういえば学園内で話すことはあっても、葉太から専門についてきちんと聞いたことはなかった。多少なり私があまり長く話すことになるのを避けていることもあるけれど……せっかく教わってるのだから、詳しい話を尋ねるくらい……。
月が綺麗で、風が気持ち良くて、草たちの楽しそうな話し声に、私も欲張りになってしまったのかもしれない。私はつい、話を続けようと質問してしまっていた。
「変化魔法?」
「んー、それをもう少し捻ったやつかな」
「それって、どんなもの?」
どうにも困ったことに私は葉太から習っている変化魔法が破滅的に苦手だった。初歩的なところから始めているはずなのに、どうしたって上手くいかない。
「もっと簡単に、花が雪に変わるとか?」
そうしたらどんなに良いかな。そう思ったけれど、葉太の答えは私の期待とは違った。
「それはまず、かなり強い媒介がないと難しいかなぁ。資材の花に近い力を発動させて、花の方の潜在能力を強くさせないと変化の力も最大限にならない。そもそも桜子の成績ではまだ無理」
「……失礼ね。せっかく質問したのに。じゃあ何を研究してるのよ」
「もっと持続的な魔法だよ。変化魔法は一時的でしかないのが現状だから、もっと長くその姿が続くようなやつ」
——もっと長くその姿が続くように、変化魔法できたら……
そんな魔法が出来上がったら……。途方もない理想論だ。それなのに、星を見上げて目を細める葉太の横顔を見たら、願う想いがふっと頭をよぎってしまって、私は急いで目を閉じた。そんな気持ち、気のせいだ。
「どした? 桜子? 寒い?」
一瞬であれ生まれてしまった想いに私は小さく首を振っていた。それに気づいたのか、葉太が気遣わしげに聞いてきた。
「ううん……何でもないっ。私もう、寮に戻るから……葉太も早く帰らないと危ないわよ。近頃はこの辺りに悪鬼が頻出するっていうから!」
堪らずそう叫んで、私は葉太に背を向けて寮の方向へ駆け出した。
優しくされたら、またあの想いが蒸し返してしまう。側から離れられなくなってしまう。高まる前に、沈めなくちゃ……
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