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破綻の証拠
俺は離婚する日だけを夢見て、10年以上耐えてきた。
娘のためではあったけど、自宅に365日夜10時から朝7時までしかいられない生活は困難を極めた。
特に2万円だけで1ヶ月を過ごさなくてはいけない辛さや、休日は時間が経つのが遅すぎて、仕事のある平日の方が待ち遠しいくらいだった。
年末年始やお盆休みなどの長期休暇は情けないことだが、老親に帰省費用を出してもらい、一人で帰省していた。
老親には娘である孫に一度も会わせられていない。結婚直前から両親と妻は険悪だったからだ。娘を連れて帰省を試みようしたこともあったが、妻はますます暴れ手に負えなくなり、他の住民からクレームが来てしまったのだ。
──こういう状況の家庭内別居が10年以上も続いていても、離婚できないのか…?!
冷静に話す真岡さんを前にして、愕然とした。
「家庭内別居をしている証拠がそもそもないですよね。家庭内で起きていることって誰も判断しようがないんですよ」
「あのー、ずっと日記をつけてましてね。こういうのが証拠になると聞いたことがあるのですが…」
「それはですね、決定的証拠にはならないんですよ。なぜかというと太田さんの私見で書かれた文章だからです」
「えっ?!」
「離婚裁判ですら、太田さんと奥さんの双方の主張を聞いて、矛盾が起きたときにその日記が参考にされるくらいですよ」
「…じゃ、じゃあどうすれば…」
「奥さんと話し合って二人で離婚に合意するか、夫婦の仲が壊れているという『客観的な』証拠を積み上げるしかないんです」
「妻はとても話し合えるような相手ではなくてですね…。何というか、激情型の人間で…」
「かつてそういうタイプの人間に遭遇したことがありますけど、主張を感情に任せてコロコロ変えるので要注意ですね」
分かる。すごく分かる。めちゃくちゃ頷いてしまった。
そう、自分のことだけしか考えていなくて、気分や状況によって意見をしょっちゅう変えてくる。
「それで『客観的な』証拠というのは、動画や音声のことですか?」
「その10年分あればいいですけど、きっとないですよね」
「はい」
「例えば喧嘩の場面が録れたとしてもですね、たまたまカッと来てしまったとか、いくらでも相手は言い訳が出来ちゃうんです」
「はぁ…」
…やっぱり離婚は無理なのか…。
「相手を暴行とか傷害で告発したいのなら別ですが、太田さんの一番の目的は違いますよね?」
本当は暴行で訴えたいくらい酷い暴れようだから、妻に対して腸は煮えくり返っているが…。
「…離婚ですね」
「ですよね。夫婦の仲が壊れていることを夫婦関係の破綻と言うんですけど、これの一番の『客観的な』証拠ってなんだと思います?」
日記や動画、音声じゃダメならば、一体何なのだろう…。
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