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奇襲の号砲
そう、夫との軋轢が起きて敵対したのは夫だけじゃなかった。
いつだって世間体だけの自分の毒両親も、私の回復を阻むだけの敵だった。
1ヶ月入院したときにも毒両親が見舞いに来たのは数回くらいだった気がする。
というのも、見舞いとはいっても
「まだ退院出来ないの?」
「顔色悪そうに見えないな。ヤブ医者じゃないか?それともお前が怠けたくて入院してるのか?」
いつもそのようなことを大声で言い残して、長くて30分くらいしかいなかったから、何回来たかなんて数えてもいなかった。
同部屋だった他の患者さんが面会時間中に労りの言葉をかけたられたり、談笑したり、差し入れをされたり、家族って本当はこういう感じのはずなんだろうなぁなんて思いながら、閉じたカーテンの向こう側を羨んでいた。
退院してから自宅で安静にしているときにも、毒両親が何回か来た気がする。
「あんた、いつ会社にいくの」
「数値が良くなってからって医者に言われてる」
「その数値も誤魔化してるんじゃないの」
「ちゃんと検査してるんだから誤魔化しようなんてないよ」
そんな会話をしていたら、毒母に電話がかかってきたことがあった。
「…そうなの。今娘の家に見舞いに来てて…そう、具合が心配でね…うん、また後でかけ直すわ」
…なーにが、心配でね…だよ。
電話を切ったら、猫なで声を豹変させた。
「あんたったらこんな恥かかせて!
普通は娘の方が元気なんだよ?!
さっさと会社行きなさいよ!」
そう吐き捨てて帰っていった。
いつしか毒両親に自宅に突撃されても、もう居留守を使うようになった。電話がかかってきてもメールが来ても反応しなくなった。
どうせ毎回同じ攻撃を食らうだけだから。
私は一人で食っていかなきゃいけないんだから、体を絶対に治さなきゃいけない。
そして夫と離婚を果たさなければならない。
そのためには無駄な攻撃をなるべく食らわないようにしないといけない。
息をひそめて一人自宅で潜伏するように過ごし、情報収集と分析を行い、来るべきゲリラ戦に備えるようになった。
ICレコーダーの購入、別居先や引っ越し時期の選定、預貯金額の確認、この自宅マンションの売却会社の選定、マンション売却時の住宅ローンの清算シミュレーション…
そしていよいよGOが出た。
「肝機能の数値が正常に戻りましたね。体の感覚に問題がなければ会社に復帰することも可能ですし、あともう一回検査して異常がなければ、お酒も少しなら嗜んでも大丈夫ですよ」
たとえビジネスライクであっても、唯一優しい言葉をかけてくれた、主治医の言葉が私の背中を押した。
──誰にも言えない、たった一人の"ひとりになるための"戦いが始まった。
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