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もの思いに耽っていると、やがてガタゴト進んでいた荷車が停まった。
どこかの屋敷の裏門らしかった。バタバタと門が開けられて、ゆっくりと荷車が進んだ。私は固唾を飲んで、誰かが荷台に手を伸ばす瞬間をひたすら恐れていた。
しかし、そのまま荷車の荷台をのぞき込む者もなく、荷車は静かに屋敷の中に入っていった。
荷車は馬屋の中に止められたようだった。近くで数頭の馬のいななきと、足踏みする音が聞こえたから。そのまま、荷車の御者台から誰かが降りた音がして、手綱を取って馬を移動させる音がした。
小声で馬を労っているのか、ささやくような声が聞こえる。
――女?
私の予想に反して、荷車の御者は女だったようだ。声が男性のものではなく女性の声だ。
その誰かは、馬を休ませると馬屋の扉を閉めて静かに出て行った。
私はそのまま待った。人の気配がしないことを耳を澄ませて感じとろうとした。
――誰もいないようだわ。今のうちにここから逃げるのよ。
私は勇気を出して麻袋の縁を広げて目を凝らした。薄暗い荷台の淵板が見えるだけで他は何も見えない。馬の息遣いが聞こえるだけだ。
そのまま袋から頭をそっと出した。目が慣れてくると、馬屋の隙間からぼんやりと入る日の明かりで、荷台に置かれた麻袋が見えた。ジャガイモが転がり出ているのが私の目に入った。私はゆっくり麻袋から這い出した。
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