思わぬ事態

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 はいでた麻袋を元あった場所に置き、私がここにいた痕跡を無くそうとした。私はそのまま荷台からそっと降りた。荷車の前には乾いた藁の山があり、もしも今晩身を隠せるところが見つからなければ、ここに戻ってきてこの藁の山に隠れて寝ようと考えた。  ――いけない。お手洗いを借りたいわ。  私は緊張が緩み、急に張り詰めていたものが少し解けて、生理現象を感じた。考えてみればずっと荷台に乗っていたのだ。皇太子妃になってから、侍女を従えずに行動したのは初めてのことだった。逃走中の私は、何もかも自分一人で解決しなければならない。  私はそっと馬屋の扉に近づき、外の気配を感じようとした。何も聞こえない。聞こえるのは、鳥の(さえず)りと馬屋の中にいる馬たちの息遣いだけだ。  そっと馬屋の扉を開けた。目を()らす。ここは庭園の外れのようだ。私はそのまま身を滑らせるように扉から馬屋の外に出た。その瞬間に、ぎくりとして固まった。  ――ここはよく知っている……!  私は衝撃と懐かしさで体を震わせた。  ――ここは子供の頃に遊び、皇太子妃に選出される少し前まで来ていた屋敷だ。私がここに来たことがあるのは秘密だったけれども。   そのことを知っているのは死んだ夫の皇太子以外には、一人しかいない。私の家族ですら知らない秘密だった。夫と、もう一人と、私の三人だけの秘密だった。  ――ここにはいれないわ。すぐに逃げ出さなけれれば。ここは、バリイエルの後継者の生家だわ……!  そう、ここはバウズザック伯爵家、ジョシュアの家だ。  
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