思わぬ事態

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 二十歳も上の皇太子は自分の前に私を愛した人物から奪うためだけに、私と結婚した。彼は妻に手を出さなかった。ジョシュアから奪えれば気がすんだから。  そう、亡くなった皇太子も知っていた通り、私の初めての相手はこの屋敷の息子のジョシュア。ジョシュアと私は互いの全ての初めてを与え合った純粋な恋仲で、横槍を入れてきたのが皇太子であった。  リジーフォード宮殿の皇太子妃は、政敵ジョシュアから奪うためだけに迎えられた花嫁。国王も王妃も国民も知らない真実だ。  つまり、皆が知らなかったことだけれども、フィッツクラレンス公爵家の長女である私は純潔ではなかった。しかし、そこがノア皇太子が狂ったように熱烈に私を花嫁に望んだ理由だった。美貌とカリスマ性を備えた政敵ジョシュアが私の体と心を手にしていたから。  もちろん、ジョシュアと私の婚姻はもともとが認められないものだった。政敵同士だから。  私とジョシュアの許されざる秘密の関係を知った女たらしの皇太子は、自分の好みを優先するより、政敵ジョシュアに対する執念深さを優先して私と無理やり結婚する意志を貫いた。  ――ノアは自分の地位がジョシュアに奪われることを予見していたのかしら?  そして今となっては、仕掛けられた謀略によってノア皇太子はあっけなく殺められ、ジョシュアがその王座を乗っ取ろうとしている。
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