思わぬ事態

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 今、ジョシュアに捕まったら、私はかつて自分が裏切った恋人に命乞いをすることになる。  私はかつて自分が捨てた恋人に、みっともなく容赦なく殺されてしまうのだろう。  私は身震いしながら歩き続けた。私の頭には子供の頃に迷い込んだのと同じ場所から這い出すことしか思いつかなかった。  ――正門も裏門も出入りは無理だわ。となるとやはりあの秘密の抜け穴から出ていこう。  私は心に決めた。  ――彼はあの場所をふさいでしまったかしら?あの場所は彼と私しか知らなかったはずよ。  私は気持ちがはやるあまりに、庭を走り始めた。一刻も早くこの屋敷から外に出なければならない。記憶を頼りに秘密の抜け穴を探した。誰にも見つかってはならないのだ。  私は無我夢中で秘密の抜け穴があった場所に辿り着いた。必死に藪の中に入って行った。抜け穴があった場所のすぐそばにきてしゃがみこんだ。  ――あともう少しでここから抜け出せるわっ!  その瞬間、突然、私の首筋に冷たい刃物が当てられた。低い男性の声が私の耳に響いた。 「動くな。動くと命はない」    私はびくりとして動きを止めた。 「立て!」  男性の鋭い声がして、私は恐る恐る立ち上がった。  横目で男の顔を見て、私は凍りついた。ジョシュア・バウズザック・バリイエルその人だ。バリイエル王朝の後継者。私が裏切った初恋の人。  ――なぜ彼がここに?軍と衝突するのを避けて彼はここにいるの?それとも、高らかにバリイエル王朝が君主になることを宣言するために、これから都に向かって出発するところなの!? 「グレース。なぜ君がここにいる?」
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