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裏切り者は殺される ※
「グレース。なぜ君がここにいる?」
ジュシュアは私を困ったような表情で見つめていた。初恋の人を久しぶりに見た私の心拍数は危険なほど上がっている。
3年前に愛している彼を裏切ってしまった。人を裏切る罪を犯したので、私は殺されるのだろうか。
相変わらず輝くような美貌のジョシュアが、困惑と怒りの表情を浮かべて私を見つめている今の状況がいたたまれない。
「に……逃げようとして荷車に乗ったら、ここについていたのです」
私は正直に伝えた。声が震えてみっともなく裏返る。よりにもよってジョシュアに捕まったのなら、万事休すだ。
「荷車?もしかして、皇太子の別荘からここまで荷車に乗ってきたということか?」
「そうです」
ジョシュアの瞳がハッとしたように大きく見開かれた。
「君はあの別荘にいたという……?なぜあの別荘にノア皇太子の妻である君がいたのか理解できないけれど……君はノア皇太子が殺される現場を見たということか?」
「はい」
私はうなだれてジョシュアの疑問を肯定した。ジョシュアの瞳の奥で何かが煌めいた。私は脅えた気持ちのまま、後ずさった。
「どちらにせよ君にも死んでもらうしかない」
「……」
体の震えが止まらない。私は死を覚悟して唇をかみしめる。彼を説得できることはないのか必死で考える。
――彼が私を殺すことを止める方法はないかしら?
――ここで一思いにジョシュアに殺されるとしても、涙を流してはダメ。潔くなければ。でもまだ諦めてはダメ。グレース、よく考えるのよ。
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