ジャスティス

1/1
前へ
/1ページ
次へ

ジャスティス

「来るな!刺すぞ!」  男は少女に包丁を突き付けながら、周りに叫んだ。  警官たちは、興奮している男を宥めようと説得を試みているが、効果はないようだった。  俺は、現場から100メートル程離れた歩道から、男に近付ける場所を探していた。  赤いライダーススーツに、赤いフルフェイスヘルメットを被っているが、殆どの人は日が当たっている時、俺の姿を視認することができない。なぜなら、自ら開発した無色透明の光学迷彩塗料を全身に塗っているからだ。  ゆっくりと日向の道を進む。  男までの距離40メートル。ここまで来ると、警官たちがわさわさ居て、日向をこれ以上進むのは、難しそうだった。  俺は一旦足を止め、首元についている右側ツマミを回した。  ピリッと微弱な電流が身体中に流れ込む。血管が広がり、体内の血液が少し暖まる。  よし、身体のリミッター解除。次に左側のツマミを回す。  ボイスチェンジャー起動。  両膝を屈め、ジャンプの態勢に入る。  タンッ。  跳躍する。  警官たちを飛び越え、パトカーの屋根に着地。 次から次へパトカーの屋根に着地しつ、男に近付いて行く。  遂に一番、男から近いパトカーの屋根に着地すると、腕を組んで言い放つ。 「これから正義を執行する!参る!」  声が響き渡る。  ダンッ。  パトカーの屋根から、跳躍し、一気に男との距離を詰める。 「ジャスティス!」  男に迫る!そこでようやく、俺の姿が視認されるだろう。深紅の姿を。  この現場にいる男、少女、警官たちが狼狽えたはずだ。その隙に男に肉薄し、男の右手首を握った。 「痛ッ!」  激痛に男は、包丁を落とした。  そして男の腹に正拳突きを喰らわせた。  男はぶっ飛び、ビルの壁に身体を叩きつけることになった。 「正義執行完了‼️では」  そう言って俺は現場から走って消えた。 「くそぉ!」  村井巡査は思い切りゴミ箱を蹴った。 「そう、当たり散らさないで下さい。ジャスティスのお陰で、早期解決できたんですから」  笹山巡査は、散らばったゴミを拾いながら、村井巡査を宥めようとする。 「なにが、ジャスティスだ。人質をとった男は肋骨粉砕骨折。人質の子になにもなかったが、下手すりゃ刺されてたぞ!」 「まあまあ、結果オーライですよ」 「けっ。俺にしてみれば、正義の味方気取りの偽善者野郎だ!」  再び、村井巡査はゴミ箱を蹴るのだった。 「あーあ」  俺の名は、正義正義(せいぎまさよし)。  趣味で勝手に正義の味方をやっている。別に名乗った覚えはないが、ちまたではジャスティスと呼ばれている。  バイクを人気のない貸しコンテナの前に停め、中に入った。  コンテナの中でヘルメットを脱ぎ、続いてライダーススーツも脱ぐ。  あらかじめ、コンテナの中に用意していた服に着替えた。 「さて、家に帰るか」  家に帰り着くと、俺はシャワーを浴びて汗をながした。  シャワーを浴び終えると、バスタオルで全身を拭き、首にバスタオルを引っかけ、裸のまま、冷蔵庫に入っているオレンジジュースを取り出し、冷蔵庫の扉を締め、一気にあおった。 「ふはぁ、うまい!」  オレンジジュースのビンをテーブルに置き、裸のままソファーに座る。  正義執行のために、自分自身で、強化服を創りだした。  ぶっちゃけ言えば、金と時間と頭があるからできたことだ。  多額の親の遺産が入り、その遺産額は軽く100億はあった。  そのおかげで俺は、努めていた製薬会社を辞め、有り余る金と時間を手に入れることが出来た。  自慢ではないが、頭の回転良さは元々あったため、お金で色々な道具を揃え、時間で考え道具を作った。  そうして俺は5年かけて、己が良いと思う正義執行を開始した。    最初はテレビの報道などで情報を得ていたが、今は、警察無線をたまに傍受することができるようなった。  噂をすればだ。警察の無線が吼えた。  俺はすぐさま、ライダースーツを着込み、ヘルメットを掴み、ガレージに向かった。 終わり
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加