Ⅰ 魔法修士課の新入生

1/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

Ⅰ 魔法修士課の新入生

 聖歴1580年代末。はるか海の向こうに新天地(※新大陸)を発見し、世界最大の版図を誇る大帝国となったエルドラニア王国の王都マジョリアーナ……。 「──ここが新しい神さまの家……そして、今日からの僕の家かあ……」  トンスラは剃っていないが、黒髪のオカッパ頭をした黒い修道服姿の小柄な少年は、まだ珍しい高価な眼鏡越しにキラキラと輝く瞳で巨大な石造りの聖堂を見上げる。  彼の名はアリィ・ポテル。王都郊外の小さな教会の前に捨てられていたところを司祭に拾われ、その教会で育てられた捨て子である。  そして、彼が見上げるのはサント・メイアー・デ・エル・エスカルゴス大聖堂……プロフェシア教への信仰心(あつ)い先々代のエルドラニア国王・女王イサベーリャ一世が造立した大聖堂であり、修道院、図書館、神学校なども敷地内に併設された国内随一の宗教複合施設、大学にも匹敵する学問の中枢だ。  今日、アリィがここを訪れたのは他でもない。付属の神学校へ入学するためである。  だが、彼はなにも司祭のような聖職者を目指しているわけではない……アリィは魔法修士となるため、ここでこれからその道について学ぼうというのである。  無論、彼を育てた司祭ダズーリャは、成長後、アリィを助祭にして自らの補佐をさせ、ゆくゆくは後任の司祭に据えようと考えていた。  しかし、彼は幼き頃より勘が鋭く、また、怖いもの知らずで度胸もあったことから、魔術の才があると考えたダズーリャは、アリィを魔法修士の道へ進ませようと方針展開したのであった。  魔法修士──それは本来、プロフェシア教会により所有することすら禁止されている魔導書(グリモリオ)の使用を特別に許可され、神の教えのもとに悪魔の力を用い、衆生を救う一助とするために研究している修道士である。  魔導書とは、この世の森羅万象に影響を与えている悪魔を召喚し、それらを使役することで様々な願望をかなえる方法が書かれた魔術の書……つまり、魔法修士はその禁断の力の使用が許された数少ない身分の一つということだ。  そんな魔法修士をこれから目指そうというアリィ少年であるが、そこへ至るための道筋は幾つか存在する。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!