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マンダリーくんとスカフィー様
由衣佳(ゆいか)の投稿から少し遅れて、スカフィーが投稿した写真は、由衣佳の代理を務めた那加川とスカフィーこと四条丸(しじょうまる)麗子(れいこ)のツーショットで、顔を隠したものだった。
那加川は四条丸麗子にメロメロで、誕生パーティが終わった後も浮かれており、由衣佳に何度も感謝の言葉を告げていた。
(またオフ会して欲しいみたいだけど、嘘つくのはちょっとなんかね。でも今更私が中の人ですと名乗るのもなあ)
由衣佳は、那加川に悪いと思いつつ、オフ会が再びないことを願い、スカフィーの投稿にいいねした。
合同誕生パーティーの後、平凡な?日常は続く。
由衣佳の業務の八割はアオトリ運用だ。二割は事務。
エゴサーチに、マンダリー文房具の商品の紹介、面白い日常のコマを探して写真を撮る。
スカフィーは彼女よりもっと活発にアオトリを運用していて、他のアカウントによく絡んでアオトリで話題になっている。一番やり取りが多いのは、やはり化粧品ブランドのアカウント。
(オフ会とかやったら、美人ばっかりが集まるんだろうなあ。多鍋さんなら美人と並んでも見劣りしないだろうなあ。うちの先輩とは違う。先輩はいい人だし、爽やかだけど、顔が整っているわけじゃないからなあ。肌もツルツルじゃないし)
そんなことを思って、由衣佳は我に返る。
(先輩はいいとして、私は女なのに肌ケアがなってない。化粧も五分くらいでさらってするくらいだし。多鍋さんからしたら、女として失格かもしんないな)
「永島?どうした?難しい顔して。変なコメントでももらったか?」
「いえ、そんなことはないですけど」
「スカフィーさんとはうまくやってくれよな。そのおかげでうちのアカウントは人気を保っているんだから」
「はいはいー」
(本当は個人的につながっていたいと思っているんだろうな、先輩)
そう思ったが、由衣佳は口には出さなかった。
「次のオフ会はいつになるかな?何か企画してくれたらいいんだが」
「え〜。私は嫌ですよ」
「なんだ、つれないなあ」
「先輩は何か理由をつけて、会いに行けばいいじゃないですか?」
「そんなの無理にきまっているだろ?文房具とスキンケア、どこに接点があるんだよ」
「そうなんですよね〜」
そもそも、スカフィーにマンダリーがいじってもらえるようになったのは、本当に偶然だ。
マンダリー文房具で作っているあぶらとり紙を紹介したら、スカフィーの目に止まり、拡散してもらったのだ。
あぶらとり紙はバカ売れ、今ではマンダリー文房具の目玉商品になっている。
和紙を使ったシンプルなデザインなのだが、安さと人を選ばないデザインが男女ともに受けていた。
それが始まりで、別の日に由衣佳が檻のようなデザインの箱を紹介して、『リアルにできてますが、中には入れません』とバカなコメントをつけたら、スカフィーが『マンダリーくんを入れて飼ってみたい』とコメントを寄せてきたので、仰天しながら『そんな趣味があるんですか?』と返したら、『想像して』とコメントが返ってきた。
それからずっとマンダリーとスカフィーのやりとりは続いている。
由衣佳は気の利いたコメントが書けないので、もっぽら受身で、それがまたいじられて喜ばれているキャラを作っているようだった。
(スカフィーさんのコメント、なんていうか、引きそうなコメントなんだけど、彼女だからウケるんだよね。あれはすごい。きっと中の人、四条丸さんは人を転がすのが得意だと思う。……先輩も既に転がされている気がするし。先輩はシングルだし、彼女もいないみたいだから大丈夫だよね。うん)
由衣佳が勝手に納得していると、横からひょいと那加川が顔を出す。
「あ、スカフィーさんがコメントしてきたぞ」
彼に言われ、由衣佳は画面に視線を向ける。
『マンダリーくんったら、そんなに刺激がほしいのかしら?』
「うわあ」
那加川が頬を赤らめながら悶える。
それを横目で見ながら、投稿を再度見ると早速コメントがぶら下がっていた。
『スカフィーさん、またマンダリーくんをおちょくってるw』
(やっぱりそうだよね?ははは)
「なんて返すんだよ。永島」
「どうしましょう」
こんなコメントをもらったのは一度や二度ではなかった。
由衣佳は必死に頭を回らす。
ちなみにスカフィーは、マンダリーの新しい文房具、鞭のようなデザインの綴り紐に対してそんなコメントをしている。
(変態みたい、普通ならそう思うんだけど、スカフィーさんなら許せるって雰囲気があるんだよね。確かに四条丸さんに鞭、似合いそう)
返事よりもそんなことを思っていると、那加川が鼻を押さえた。
「やばいっ、鼻血が出るかも」
「先輩、何想像しているんですか?!」
(先輩、想像しすぎ。確かに四条丸さんにそんな事言われたら、鼻血ものかもしれないけど)
『スカフィーさん、何、想像しているんですか。やめてください〜〜』
由衣佳は悩んだ挙句、結局そんなコメントしかできなかった。
それでも、マンダリーくん的に良かったようで、『マンダリーくん、今日もかわいそー』等のコメントがついた。
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