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【2】
憂と約束した金曜日は、あっという間にやって来た。憂がアルマディージョに来たのが月曜日だったから、憂に会うのは4日振りという事になる。
憂とは京帝大学前のスターパックスコーヒーで直接待ち合わせることにして、俺は普段乗り慣れない電車を乗り継ぎ、10時ぴったりにスターパックスコーヒーの前に到着した。
ガラス越しに見える店内をさりげなく覗くと、既に憂と思われる人物が窓際の席に座っていた。
白いニットを着て、黒い髪を下ろしている憂は俺を探そうともせずに、ノートパソコンとにらめっこをしている。
俺も自分なりに考えた紙のデザインを鞄に入れ、店内へと入る。
俺はコーヒーを注文をするよりも先に憂の元へ行き、彼女に声をかけた。
「おはようございます」
憂はノートパソコンを叩く手を止め顔を上げた。
休日だからなのか、この間会った時よりメイクは薄めで、なんだかあどけなく見える。
「おはようございます。
ーーー今日、寒いですね」
憂はそう言ってから、足元にかけた膝掛けを整えた。憂は白いニットの下に薄手の黒いタートルネックを合わせていた。
首元のネックレスは繊細なデザインにも関わらず、中央のダイヤがライトを反射して輝き、高価な物である事を推測させる。
ーーーもしかしてそのアメリカに行った恋人からのーーープレゼントだったりするのだろうか。
「冬に逆戻りしたみたいですね」
俺はそう頷いてから椅子を引き、憂の隣の席に荷物を置いた。真正面だとデザインを見せる時にいちいち相手の方にパソコンや紙を回転させなければならないから、憂はそれを考えて、この横に並んで座れる席を選択したのだろうか。
あの頃学生だった憂は年齢を重ね、こうやってきちんと気を利かせ仕事をしているのだなと、俺はあらためて考えさせられる。
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