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「チェックは僕がするからさ! 2人でどんなのが良いか話し合って、デザイン決めてみてよ」 「そうそう、こういうのはオシャレに敏感な人がやった方が絶対良いしーーー僕等は他の企画進めていくからさ」 駒場さんもそう言って笑う。 いやいやーーー…貴方だってそのハット…随分オシャレにこだわりあるように思えますけど… 「僕も社長とか交えてやり取りとかすると、色々忙しくなっちゃいそうでーーー だからデザインは平君と佐崎担当で… ね!お願い!」 駒場さんに頭を下げられた俺は断りづらい気持ちが一気に増した。数年前からマスコミにもしょっちゅう取り上げられているUryu. 店舗はまだ1店舗のみだが、近々2点目をオープンしたいとこの間地域の情報番組で社長らしき男性が話していた。 そのUryu.の店長である駒場さんから目の前でこうやって頭を下げられると…もう断る言葉は喉をつっかえて出てこなくなる。 「大体のデザインや意向を聞かせていただけたら、デザインは私がします…! 平さんのご負担はなるべくかからないようにしますからーーー私からもぜひお願いしたいです」 憂にも言われ、東堂さんとも目が合った。 ーーーこんなの…絶対断れないやつじゃんか… 俺は掌を握りその手を改めて膝に置いた。 「そしたらーーー…お願いします… ………あんまり自信…無いですけどーー…」 言葉の途中で、テーブルを挟んで座っていた駒場さんと憂は一気に笑顔になる。 憂のその嬉しそうな笑顔も声もーーー演技なんだろうと思うと不思議と胸が苦しくなった。 憂が俺と一緒に仕事をするのをーーー快く思っている事なんて絶対に無い。 もし快く思っているのならーーー俺との連絡を全て断ち、俺の前から勝手に消えたりはしない。 だから憂のこの笑顔や嬉しそうな声は演技でーーー駒場さんや東堂さんを喜ばせつつ、俺と他人である事をアピールするためのものに他ならない。
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