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「ーーー…大学1年の頃…会ったでしょ…? ……佐崎さんは京美大で…俺は京帝医科大だった…今…32歳……同い年だよね…?」 自分の目の前にいるのは憂で間違いないはずなのに、憂から予想外のリアクションを食らった俺は一気に弱気になる。 いきなり憂をと呼んで顔色を窺い、挙げ句の果てに「俺ら付き合ってただろ」という当然の言葉すら言うのを躊躇って飲み込む。 憂は当時を思い出すかのように視線を斜め上にしてから、本当に困ってしまったかのように視線を斜め下に向けて小さく俯いた。 「確かに私は京美大にいましたけどーーー… …平さんと会ったのは覚えてないです… ーーー…平さんはいつ、どこで私と会ったんですか…?」 聞き返され、困ってしまう。 もしかして憂のこのリアクションは全てーーー憎き俺を困らせるための演技なのか。 それとも目の前にいる佐崎憂という女性は、記憶喪失にでもなって俺のことを忘れてしまったというのか。 もしくは目の前にいるのは佐崎憂を名乗るロボットがアンドロイドでーーー実際に俺と付き合っていた佐崎憂ではないのだろうか。 あとはそうーーー憂は実は双子で…姉か妹の方が憂のフリをして俺を試しているとか。 考えられる限りの可能性を頭の中に用意して、俺は憂の様子を窺うために彼女の問いに嘘をついて答える。 「それはーー…その…バイト先で……」 「…バイト…? あ…ーーー…エッジハウス…ですか?」 俺は思わず「そう!」と大きい声を出してしまう。 確かに美大生だった憂がバイトしていたのは『エッジハウス』という名前のカフェだったからだ。 「あそこは3年生まではバイトしてたんですけど…もしかして平さんお客様としていらしてましたか? ーーースタッフならぼんやり覚えてるんですけど、お客様だと覚えてないかも」 俺は憂の言葉に乗っかり、芝居をしてみることにした。憂は本当に俺を覚えていないのかーーー本当にそうならやりやすいが…その可能性は現実的に考えると少ない。 「じゃあ覚えてないかーーー… …声かけて何回か話したんだけど…佐崎さんからしたらよくある事だったかもしれないしーーー印象に残らなかったかも」 俺がそう言うと憂は困ったように笑って、弁解するように手を胸の前で合わせた。
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