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「ーーーらさん…!……平さん!!!」
「!!……あ…はい…!!!」
過去を振り返っている最中、今を生きる憂の声に現実に引き戻される。声も10年前と比べるとーーーなんだか少し低く、落ち着いた声になったようにも思える。
「ーーー…大丈夫ですか…」
「ーーーすみません…大丈夫です…。
ーーー…朝畑に行ってきたら…結構暑くて…ボーッとしてしまって…」
本当に心配そうな表情の憂を前に、俺は即座に言い訳を考え嘘をつく。
「今日3月にしては暑いですもんねーーー
ーーーよかったら、コレどうぞ」
憂はペットボトルに入ったミネラルウォーターを俺の前に差し出した。
小さめのサイズの、青いキャップのミネラルウォーター。
「さっき買ったんですけど、まだ飲んで無くてーーー私水筒も持ってきてるので…よかったら」
にっこりと微笑まれ、心臓がさっきとは違う様子で速くなる。
誰かにこういう感情を覚えるのはーーー随分久々だった。
「ありがとうございますーーー…すみません…もう一度デザインのお話…聞かせてもらっても良いですか…?」
俺は憂の手渡してくれたペットボトルを受け取り、改めて椅子に座り直した。
今は仕事に、集中しなくてはならない。
憂は「もちろんです」と笑うと簡単な資料を俺に手渡した。
「コラボ商品なんですけど、今考えているのは4点です。実売期が夏になりそうなので、Tシャツとコースター、あとはサングラスと、扇子で検討しています」
俺は憂が渡してくれた資料に視線を落とした。
7月下旬から8月初旬には販売を始めたいと書いており、中々急いで進める企画なのかなと考えさせられる。
「社長の意向でーーー毎年コラボ先の地域企業を変えなくてはいけなくて…
販売数は数量限定で多くはないんですけど…
スケジュールがかなりタイトで…びっくりしちゃいますよね」
憂は俺の考えを読み取ったかのようにそう説明して、再び右側の髪の毛を耳にかけ直した。
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