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「何かありますか?
ーーー描いて欲しいものとか、どんな色を使って欲しいとか…あればメモしておきます」
憂にペンを握ったまま微笑まれ、俺は慌てた。
具体的に描いて欲しいものーーー…
「そう…ですねーーー…無難ですけどワインのボトルとかグラスとか…ぶどうとかも良いかもしれません…
ーーーあ…あと……店の名前にちなんで…アルマジロとかもいいかも」
「アルマジロ?」
憂は不思議そうな顔をして、俺を見つめる。
真っ黒い澄んだ目は、昔から変わらない。
「『アルマディージョ』ってイタリア語のアルマジロ…アルマディッロを捻ったものなんです。
アルマジロって1日18時間も眠るんです。ワインも寝かせて…熟成させて美味しくなるじゃないですかーーー…あと一卵性の四つ子を産むので繁栄の象徴だったり…マヤ文明の神話だと神の足置きとか、台座とか…縁起良さそうなことが書いてあってーーー
あとはただ東堂さんがアルマジロ大好きって事が大きいんですけど…それでアルマジロ…アルマディッロを捻って『アルマディージョ』ってワイナリーにしたんです」
説明の途中から、憂は手元の資料の空きスペースにアルマディージョの名前の由来や、アルマジロの生態までもメモしている。
メモしながらも時々顔を上げて俺の説明を聞き、うんうんと頷いてくれる感じの良さは昔から変わっていない。
「えーーー…良いですね、アルマジロ…
平さんから話を聞けなかったら、全然考えもしませんでした。
アルマジロから『アルマディージョ』になっていたんですね」
憂は楽しそうに笑って自分のメモを再び見つめた。
正確にはアルマディッロからアルマディージョだけどーーーまあ…いいか。
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