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「もしよかったら、お昼食べて帰りませんか?」 俺に言われた憂はノートパソコンのキーボードを叩いていた手を止め、視線を斜め下に向けた。 時計に視線を向けた憂は、時間を確認する為に服の裾をさりげなく捲る。 俺の視線はその瞬間、腕まくりをした憂の手首に持っていかれる。 憂の腕につけられた腕時計は、俺が憂と付き合う際の告白のタイミングでプレゼントした『SPAICA(スパイカ)』というブランドのものだった。 時計は現在も俺が使っているこの時計とペアになっており、両方ともベルトは革製のブラウンで、文字盤が俺のはブルーブラック、憂のはホワイトだった。 憂は俺同様、まだこの時計をつけていたのかーーー 「ーーー時計、同じですね」 憂をランチに誘っておきながら、つい話を切り替えて質問してしまった。 憂は俺を覚えていない。 という事はこの時計の事もーーーもちろん覚えていないのだろう。でもそれは一度気になりだすともう歯止めが効かず、言葉となって俺の口から飛び出した。 憂は驚いたように少しだけ目を大きくしてから、俺の時計と自分の時計に交互に視線を移した。 憂の白い肌に馴染む、赤みがかったブラウンのベルトの時計。 「本当ですねーーー! ーーーだいぶ前から使ってて、気に入ってて… ベルトは何回か交換しているんです…! デザインも綺麗だし丈夫で、長持ちしてて」 憂のリアクションに少しの安堵感と落胆を覚えつつ、俺は次の質問を探す。こうやって憂が俺を覚えているかいないかを再確認してーーー俺は一体何をしたいのだろう。憂にどうあって欲しいのだろう。 過去の俺の事を忘れてくれていて欲しいと願いつつ、こうやって自分が渡したプレゼントの事を忘れている彼女を見て、もどかしく感じる自分もいる。
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