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笑いながら話す憂を前に、胸が針にでも突かれたかのようにチクリと痛む。憂が丈とアイツを呼ぶのを聞くと、普段もそんなふうに呼んでいるだろうなと想像してしまう。
「あまり大勢と話すのは得意じゃないみたいでーーー…本当は優しいんですけどね」
本当は優しいとまで言われると、実際憂はアイツに優しくされているんだろうなと更に傷つく。
「ああ見えて動物好きなんですよ、丈。
私が交通事故に遭った時もーーー丈が応急処置をしてくれていたから助かったんです」
憂は当時を思い出すかの様に、愛おしそうに目を伏せる。
憂の長い睫毛が目の下に影を落とし、その表情は美しかった。憂にこんな表情をさせる黒谷丈に、俺は嫉妬してしまう。
あの頃憂と付き合っていたのは、紛れもなく自分なのに。
なんでーーー黒谷丈が憂の恋人になってる?
憂は確かに俺と付き合っていてーーー
憂の母親も俺と憂が付き合っているのを知っていたーーー
なのになんで最初からーーー憂は黒谷丈と付き合っている事になってるーーー?
「それってさ」
俺は憂の話を遮って声をかけた。
憂は黒谷丈が犬が好きという話をしている最中だったが、そんなの今はどうでもいい。
「黒谷から聞いたの?」
「え?」
憂は俺の言っている言葉の意味がわからないのか、俺の顔を見て首を小さく傾げた。
「事故の後目が覚めて…そこで黒谷からーーー
佐崎さんと自分が付き合ってるって聞いたわけ?」
俺は尋問する様な態度にならない様に、努めて柔らかい雰囲気でそう尋ねた。
憂は頷き、答えてくれる。
「そうですーーー…大学に入った頃から付き合ってるってーーー…私の母も同じ様に言っていたので、疑いはしなかったです」
「写真とかなかったの?
見せてもらえると、直ぐ信用出来るよね」
憂は俺の腹の底の何かを感じ取ったのか、警戒する様に体を少しだけ後ろに引いた。
「丈は写真をあまり撮りたがらないタイプでーーー2人で撮った写真は持ってないって言ってました」
「大学の頃から付き合ったのにーーー?
ーーーー…3年間で一度も?」
俺の質問に、憂はとうとうムッとした顔をした。
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