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「どうしてーーー…そんな事聞くんですか…?」
憂の反応に『本当は俺が恋人だったんだよ』という台詞が、喉元まで上がってくる。
しかしそれを告げるのはまだ躊躇われ、俺はその言葉を飲み込んだ。
今おかしな事を言って憂を困惑させてもーーー碌なことにならない。これを告げるのはもう少しーーー距離を縮めてからでもいいだろう。
冷静にならなくてはならない。
これはーーーまたと無いチャンスなのだから。
「いやーーー…本当に嫌なヤツっていうか取っ付きにくいヤツだったから…黒谷が佐崎さんと付き合ってたのが、意外過ぎて」
俺はそう言って、憂を揶揄うように微笑んで見せた。
憂は俺の先程までの質問に悪意が無いと思ったのか、拍子抜けした様な顔をしてから、少しだけ照れ臭そうに笑った。
そんな顔しちゃってーーー…交通事故で記憶喪失になったのを良い事にーーー黒谷に騙されてるとも知らないで。
どうせ友達さえも1人もいない黒谷が憂の事故現場にたまたま居合わせてーーーそれで憂が記憶喪失なのを良い事に憂の母親と口裏を合わせて…自分が恋人だったって刷り込んだんだろーーー
憂の母親は『イイ男捕まえなさいよ』とよく憂に言っていてーーー憂が早く自分の元を去る事を望んでいた。
だから当時の俺の様な将来性の無い男よりーーー学部でトップの成績を誇っていた黒谷が憂の恋人である方がメリットが有ると感じたのかもしれない。
おそらくそれで2人で口裏を合わせてーーー事故後目を覚ました憂に黒谷が恋人だと告げて騙したのだ。
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