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「やっぱりお昼食べるのはやめておきましょうか…黒谷に悪いしーーーアイツに嫉妬されたら怖いから」
俺は笑って荷物をまとめ、帰る支度を始める。
憂はなんと言うだろう。今日の様に連続して憂と2人になれる時間を作ってしまっては、憂は俺に警戒して後々気まずくなるかもしれない。
「全然大丈夫ですよーーー…!
丈がヤキモチ妬くの見たことないですし…丈もあっちだと普通に女の人がいる飲み会に行ったりしてるみたいですし」
憂は笑い、自分も残りのドリンクを飲み切るためにコップに口付けた。憂は顔を上に向けてドリンクを飲み切ると、トレーとカップを持ち立ち上がろうとする。
「置いてきますよ」
俺は憂を制止して、憂のトレーとカップを自分のトレーの上に重ねた。憂は驚いた顔をしてから「じゃあお願いします」と微笑み、ノートパソコンを片付け始めた。
「黒谷に叱られないならーーー
お昼ご一緒してもらってもいいですか?
ーーー男1人だと、入りにくいお店があって」
考えていた口実を口にして、憂の顔色を伺う。
昔と変わらず鈍感な憂は、俺が自分に気があるなんて、微塵も思っていないだろう。
「もちろんです」
ノートパソコンの画面を閉じた憂は、微笑みながら頷いてくれる。
俺はトレーとカップを返却用カウンターに返すと、直ぐに憂の元へと戻った。黒谷丈は本当にこれを知っても、なんとも思わないのだろうか。それともあの時の俺の様に、憂は自分を愛してくれているから大丈夫と高を括っているのだろうか。
「パンケーキなんですけどーーー
『ガティーシェ』ってお店のパンケーキのランチがすごく美味しそうで、気になってたんです」
店の外へ出てから告げると、憂は「パンケーキ!嬉しい」と声を上げた。
俺達は10分ほど歩いてガティーシェへたどり着き、憂はエッグベネディクトとアボカドのパンケーキ。俺はビスマルクのパンケーキを注文した。
俺は昔に戻ったかの様に憂との時間を楽しみ、自分は知っている憂の話を初めて聞くかの様に聞いたり、憂が忘れてしまっている自分の話をしたりした。それは長年忘れていた幸福であり、今までどんな女性と過ごしてみても手に入れる事ができなかった、懐かしい幸福でもあった。
憂を、自分のものにしたいーーーー
無邪気にパンケーキを頬張る憂の横で、俺の頭は既にーーー憂を黒谷丈から奪うための作戦を考え始めていた。
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